福祉用具の活用事例Examples of welfare equipment utilization
マルチポジションベッドとハグ
福祉用具を活用して
可能な限り在宅介護を続ける
介護を自宅で続けたいと考える人は多い。自分の手で面倒を見たい。夫婦で暮らしていたい、親子でいる時間を大切にしたい……。そんな在宅介護を支えるのが福祉用具であり、介護ロボットだ。静岡県焼津市のSさんは奥様が脳梗塞を繰り返し、自宅での介護が長くなっている。Sさんは76歳、奥様は71歳。奥様の容体が悪化している中、可能な限り自宅介護を続けようと2022年1月からマルチポジションベッドとハグをレンタルした。寝起きやトイレへの移動が楽になったとSさんは笑顔で語る。
静岡県焼津市 Sさん夫妻
脳梗塞で自由がきかなくなった奥様
日本有数の港町として知られる静岡県焼津市。遠洋漁業や水産加工業が盛んで、市内にある3つの漁港では、カツオ、マグロ、シラスやサクラエビなど新鮮な海の幸が水揚げされる。「遠洋漁業用の大型冷蔵庫が多くあります。焼津といえばマグロが有名ですが、カツオの水揚げも日本一を誇ります」と、焼津駅前に住むSさんは自慢する。「港町ですから、元気な人が多いですよ」とも付け加える。海産物ばかりではない。目の前には駿河湾が広がり、目をあげれば富士山が迫る。焼津は海と山に恵まれている風光明媚な観光地なのである。
Sさんは市役所に長く勤め、高齢対策室に籍を置いていたこともある。「介護保険制度ができる前のことです。それまでは市町村に介護が委ねられていて、ボランティアで活動する人に支えられていました」とSさんは説明する。市役所を退職した後は老人ホームに勤め、特養の施設長をしていたこともある。介護の業界や福祉用具に詳しい方だ。
奥様が脳梗塞を患ったのは30年ほど前、まだ奥様が40代のことである。出先で体調不良を訴え、医療機関を受診したところ、脳梗塞と診断されて入院となった。
「びっくりしました。どうしたんでしょうねえ。学生のころはテニスで全国大会に出るほどの元気だったんですが」と、Sさんは振り返る。
将来を見越してバリアフリーの自宅を新築
奥様はほどなく退院、軽い後遺症は残ったものの、介護を必要とするほどではなかった。生活に影響を与えるほどではないが、親御さんも脳梗塞で伏せていたことから、Sさんは将来を見越して自宅の改築を決心。木造だった家から重量鉄骨3階に建て替えた。福祉現場にいたことからバリアフリー設計とし、階段やトイレ・風呂場には手すりを付けている。「建設費をカバーするために、1階を駐輪場にしています。駅に近いこともあってよく利用されています」(Sさん)。
奥様は当初、元気で旅行に出ることもできた。しかし、出先で失禁してズボンが濡れることもあったそうだ。Sさんが退職してからのことだが、散歩の途中、歩きが変なことに気がついた。医者に診せたらまた脳梗塞となっていることが判明した。
マルチポジションベッドとハグをレンタル
本格的な介護が必要となり、Sさん宅では介護ベッド(ギャッチアップベッド)と車いすをレンタルした。畳の床だったが、車いすのためにフローリングを重ねた。自宅にはエレベーターも追加で設置した。このエレベーターに車いすで乗って、奥様はデイサービスに通うことになった。
「合計で4回脳梗塞を繰り返しています。その度に症状が悪化し、やがて介護ベッドと車いすなしでは生活できなくなりました」と、Sさんは語る。
奥様は2階で寝起きしている。トイレが廊下を挟んで数メートルの位置にあるため、車いすで移動していたが、簡単にはベッドから車いすに移乗できない。車いすから便器に移動することも大変な作業となり、これをSさんが介護していた。トイレも狭い。Sさんも体は丈夫な方ではあったが、さすがに限界となった。
そこでフランスベッドから勧められてマルチポジションベッドとハグをレンタルすることになった。2022年1月のことである。
「これは便利ですね。一目見て、うちに必要なのはマルチポジションベッドとハグの組み合わせだと確信しました」とSさんは当時の感動を訴える。
力仕事だった介護の負担を大幅に軽減
マルチポジションベッド、ハグのレンタル、洗浄機能付きのポータブルトイレと同時期に揃えて、奥様の室内に設置した。洗浄機能付きのタイプである。
朝目覚めると奥様はマルチポジションベッドで起き上がり、ベッドの座高を下げて、ハグに移る。「マルチポジションベッドはスムーズに角度調整や座高位置を変更することができて、便利です」(Sさん)。0°~75°まで無段階で調節、リフトアップ機能で、立ち上がりや移乗をサポートできる。
ハグに移ってから、角度をモーターで調整し移動、自力でトイレに移って排泄することできるようになった。マルチポジションベッドとハグは、操作も簡単でわかりやすい。
「今まで私が介助していたのですが、大変な作業でした。これをほとんど自分でできるようになっています」と、Sさんは顔をほころばせる。福祉用具に詳しいだけに、その価値もわかるのである。
車いすもモーターが付いて自動運転できるタイプを追加レンタルして利用している。週5回のデイサービスの送迎車には自分で乗り込むことができるようになった。
「うちの自家用車も車いす対応にしました。これで妻を病院に連れて行くことができます」(Sさん)。
在宅介護を可能にする優れた福祉用具
2023年には4回目の脳梗塞を患い、4カ月の入院となった。それでも、退院してからも在宅介護にこだわり、Sさんは奥様の面倒を見ている。介護の無理がたたって背中を痛めてしまったほどだ。「自分でも体の具合が悪いなと思って。病院にかかって、調べてもらったら骨が折れているとのことでした」(Sさん)。これほど、介護は大変な負荷となるのである。医者からは絶対に安静にしてくださいと言われたと苦笑する。
すでにマルチポジションベッドとハグを使うことで、見守る程度で介護ができるようになっている。「マルチポジションベッドとハグなしではとても介護を続けることはできません。本当に助かっています」と、何度も口にした。
Sさんは施設に入れることを拒んでいるわけではない。施設に入ることは前提となっており、どこにするかも決めてある。それにもかかわらず、可能な限りいっしょにいたいとこだわるのである。
「私自身ルーズなところがあって、ひとりになったらどうなるかわからんのですよ。妻がいるから朝起きてまともに生活しているようなものです。ひとりだったらご飯さえまともに食べるかどうか」と、自嘲する。
Sさんは朝5時45分に起き、駐輪場の管理をして朝ご飯を食べ、9時に奥様をデイサービスに送り出す。奥様が戻ってくるのは4時過ぎだ。
夫婦でいっしょにいたい、家族で暮らしたい
夫婦でいっしょにいたい、家族で暮らしたいと考えている人は多いだろう。介護が認定されたらすぐに施設へ行くということはないのである。
「自宅で介護ができるのは優れた福祉用具があるからです。マルチポジションベッドとハグには本当に助かっています。これがなかったら老人ホームに入らざるを得ません」と、Sさんは断言する。
Sさんは特養に勤めていたこともあり、施設を否定しているわけではない。当時に比べれば進化しており、今では個室になってプライバシーも守られていると認める。
奥様も在宅介護を希望しているのだろうか。
「妻は何も言いません。我慢強いから我慢しているのかもしれませんね」(Sさん)。
施設に入れることで離れて暮らしている長男の負担も減るかもしれない。例えば、車いすから滑り落ちると、会社勤めの長男に助けを呼んでいる。これをカバーできる器具があればいいと希望している。
できるだけ環境を整えたい。そして自宅で介護を続けたい。これは在宅介護を希望する方々の痛切な願いではないか。それを支援するのが福祉用具開発メーカーの使命なのである。
メーカー担当者の声
マルチポジションベッドとハグを併用することで、介護労力が軽減し大変喜ばれております。
利用者様も身体的な負担がなくスムーズな起居•移乗動作が行えることでとても安心しております。
今後も利用者様の自立や介護者の負担を軽減することを目的に情報提供を行っていきたいと思います。
フランスベッド株式会社 メディカル中部営業部 メディカル静岡営業所
主任 杉浦将孝
スペック
離床支援 マルチポジションベッド
MPB-SU B30SW 30DG
■サイズ:
全幅 120×全長 206×全高 86~126cm
■ボトム高:35~75cm
■背上げ角度:0~75° 脚上げ角度:0~20°
■重量:(グリップ有)146kg
■最大使用者体重:170kg
■対応マットレス幅:専用 マットレス 91cm
■定格:AC100V 50/60Hz
■消費電力 265W(連続使用時間 2分)
●フランスベッド(株)
移乗サポートロボット Hug L1
■サイズ:
全長 88×全幅 55×全高 85~120cm
■足乗せ台:外幅 35×高さ 6cm
■重量:30kg
■最大使用者体重:100kg
■材質:フレーム/鉄 カバー/PVC
クッション/ウレタン
■定格:バッテリー DC24V
●(株)FUJI