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厚生労働省 老健局 高齢者支援課 介護業務効率化・生産性向上推進室 室長補佐
秋山 仁氏氏
・「介護ロボットの支援策を有効活用してください」
・介護ロボットで人手不足を解消
・現場の生産性向上と業務の効率化
厚生労働省による介護ロボットの導入支援は2015(平成27)年度から本格化され、2020(令和2)年度からは介護ロボットの相談窓口を全国に設けるとともに、介護現場とロボット開発企業を結ぶプラットフォーム事業も展開している。これら事業推進の中枢となっている厚生労働省 老健局 高齢者支援課「介護業務効率化・生産性向上推進室」を訪ねて話を伺った。
厚生労働省 老健局 高齢者支援課 介護業務効率化・生産性向上推進室
介護現場で深刻化する人手不足
世界に例を見ない速度で要介護者が増加している中、介護現場では人手不足が叫ばれている。「第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等」に基づくと、2019年と比較し2040年には、さらに69万人の介護職員が必要になると予想されている。労働現場の需給ギャップは介護に限らず、全産業における極めて大きな課題だ。
そこで厚生労働省は、品質を落とすことなく介護サービスを続けられるよう、介護ロボットの支援事業を展開している。
「目的としているのは介護現場の生産性向上です。限られた人材をどううまく活用していくか。幅広い取組を推進しており、その中の1つとして介護ロボットの導入支援があります」と、厚生労働省 老健局 高齢者支援課 介護業務効率化・生産性向上推進室 室長補佐 秋山 仁氏は説明する。
厚生労働省による介護ロボット普及活動
厚生労働省では、地域医療介護総合確保基金を活用して「介護ロボット導入支援事業」を実施している。具体的には負担軽減や効率化を目的に、介護ロボット1機器上限30万円(移乗支援機器・入浴支援機器は上限100万円)として導入費用の一部を補助している。
2020(令和2)年度からは「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業」として、介護ロボットの開発から導入・活用までの相談窓口(地域拠点)を設置したほか、介護ロボット製品化の評価・効果検証を実施するリビングラボと実証フィールドを提供している。
「令和5年度からは介護ロボットの活用を含む生産性向上に関する相談を一元的に受け付ける窓口を都道府県に設置する事業を開始するとともに、国においては生産性向上ガイドラインの策定やフォーラムやセミナーによる啓蒙活動を積極的に展開しています」(秋山氏)。
例えば、「介護現場における生産性向上推進フォーラム」では、介護ロボットやICTなど生産性向上の取組を実施している介護サービス事業所の紹介や講演、自治体による生産性向上の取組に対する支援事業の報告、生産性向上の取組を実施するためのポイントなどを解説している。
普及状況 見守り支援機器の導入率は30%
介護現場の調査も実施しており令和4年度の導入概況調査では、介護ロボットの導入割合について、見守り支援機器は「入所・泊まり・居仼系」で30%、入浴支援機器は「入所・泊まり・居仼系」で11.1%、「通所系」8.7%、介護業務支援機器は「入所・泊まり・居仼系」で10.2 %と報告されている。
令和4年度の導入調査では施設職員と利用者に対してアンケートを実施した。そのうち、 「設置有無別の機器を導入したことによる変化:施設・事業所全体」の項目では、「職員の離職防止につながった」では、「そう思う・かなりそう思う・ややそう思う」の合計39.4%の高い数字を出している。同様に「施設・事業所のブランド化につながった」では41.4%を示している。
また、導入の効果については、「介護ロボット等の安全かつ有効活用するための委員会の設置有無別の機器を導入したことによる変化」における「委員会の設置有無別の機器を導入したことによる変化:施設・事業所全体」の項目では、「職員の離職防止につながった」では、「そう思う・かなりそう思う・ややそう思う」の合計39.4%の高い数字を出している。同様に「施設・事業所のブランド化につながった」では41.4%を示している。「委員会の設置有無別の機器を導入したことによる変化:利用者の行動等の変化」の項目では「利用者の自立支援につながった」は「そう思う・かなりそう思う・ややそう思う」の合計は46.3%と半数に近い、同様に「利用者とのコミュニケーションの機会が増えた」では39.8%となっている。
また、令和5年度より、「『介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰・厚生労働大臣表彰』を実施しており、初年度である2023(令和5年)年には、内閣総理大臣表彰2事業者、厚生労働大臣表彰 優良賞4事業者を表彰しています」と、同室 介護ロボット開発・普及推進室 主査 兼子 雄氏は語る。
内閣総理大臣表彰は特に優れた取組を行う事業者であり、その1つ「砧ホーム」はインカムや見守り機器などの効果的な活用と生産性向上に資するガイドラインに基づき策定した施設の事業計画などが評価されての受賞となった。同様に「ささづ苑かすが」は介護ロボットやICTを活用した負担軽減や業務の効率化、時間外勤務の削減が評価された。
内閣総理大臣表彰(特に優れた取組を行う事業者)2事業者
運営法人 | 事業所・施設名 | サービス種別 | 都道府県 |
---|---|---|---|
社会福祉法人 友愛十字会 |
砧ホーム | 介護老人福祉施設 | 東京都 |
社会福祉法人 宣長康久会 |
地域密着型特別養護老人 ホームささづ苑かすが |
地域密着型 介護老人福祉施設 |
富山県 |
厚生労働大臣表彰 優良賞(優れた取組を行う事業者)4事業者
運営法人 | 事業所・施設名 | サービス種別 | 都道府県 |
---|---|---|---|
社会福祉法人 ライフ・タイム・福島 |
特別養護老人 ホームロング・ライフ |
介護老人福祉施設 | 福島県 |
社会福祉法人 リガーレ暮らしの架け橋 |
地域密着型総合ケアセンター きたおおじ |
地域密着型 介護老人福祉施設 |
京都府 |
医療法人 敬英会 | 介護老人保健施設 さくらがわ |
介護老人保健施設 | 大阪府 |
社会福祉法人 堺福祉会 |
特別養護老人 ホームハートピア堺 |
介護老人保健施設 | 大阪府 |
生産性向上のために厚労省が取り組んでいるテクノロジーの導入支援は、介護ロボットの導入支援とICTの導入支援の2種類ある。2024(令和6)年度からこの2つを一体化させ1つの支援事業として推進していく。
ICT情報の活用「ケアプランデータ連携システム」
「ICTによる情報活用で特に力を入れているのが『ケアプランデータ連携システム』です。居宅介護支援事業所と介護サービス事業所の間でケアプランのデータ連携を実現し事業所の負担を軽減するためのシステムです」と、秋山氏は紹介する。
これまで介護保険におけるケアプランは紙の状態でやりとりされ、時間がかかる上、転記ミスの危険性があった。そこで、ケアプランの情報をデジタル化し、オンラインで共有できるようにした。介護記録ソフトから出力された居宅サービス計画書やサービス利用票のデータをドラッグ&ドロップだけで操作でき、事務処理を大幅に削減できる。郵送やFAXなどの繁雑な手間から解放される。
「『ケアプランデータ連携システム』の先には介護DXともいうべき介護情報基盤の整備があります。散在している介護情報を一ヵ所に集約し、利用者、介護事業者等の関係者が必要とする情報にアクセスできるようにします」と、今後の構想を秋山氏は語る。
支援事業を有効活用して介護現場の課題を解決
「厚労省では、既存の補助事業に加えて、2023(令和5年)年度は補正予算として351億円を組み込んでいます。ぜひこれをご活用していただきたい」と兼子氏は強調する。
「ただ、導入が目的になって課題解決をおろそかにしないで欲しい」と、秋山氏は付け加える。介護ロボット等の活用の検討を開始すると、一足飛びに導入自体が目的になってしまい、当初の意義を失ってしまうケースが多いという。
本来であれば、現状を分析し、課題を特定し、その解決のための介護ロボットの活用であり、ICTシステムの構築である。しかし、この過程を飛ばして、機器の導入そのものが目的になると、思うように活用が進まない可能性がある。
このような事態を避けるため、厚労省の用意しているのが先にご紹介した相談窓口である。介護ロボットに関する相談対応の他、介護ロボットを試しに一度使ってみたいという希望に応え、介護ロボットの試用貸出依頼を受け付け、貸出企業への取り次ぎも行っている。現場での活用をイメージできる場として展示場も用意し、介護ロボットに触れたり、体験したりすることができる。
「ぜひ、これら相談窓口やセミナー・フォーラムを利用して、介護現場の生産性向上に取り組んでください」と秋山氏は訴えた。
参照・アクセス先URL
介護分野における生産性向上
・生産性向上カイドライン
・支援・促しの手引き、スキル研修教材
・業務時間見える化ツール、効果測定ツール
https://www.mhlw.go.jp/kaigoseisansei/index.html
介護分野におけるICTの利用促進
・ICT 導入支援事業
・ICT 導入の手引き、ICT導入促進セミナー
・ケアプランデータ連携標準仕様
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-ict.html
ケアプランデータ連携システム
(ヘルプデスクサポートサイト)
https://www.kokuho.or.jp/system/care/careplan/