研究・事業助成採用事例Examples of research and business grants
医学系研究科 大学院 保健学専攻
総合ヘルスプロモーション科学講座 准教授
内海 桃絵氏
令和4年度(第33回)/
地域包括ケアを基盤とした在宅ケア推進のための感染対策リーダー育成事業
地域の力で感染を絶つ!
感染症対策の地域リーダーの育成と支援
新型コロナウイルス感染症は5類に移行されたとはいえ、感染症の脅威はまだまだ予断を許さない。感染症対策は一過性のものでもなければ、一部の専門家に託された課題でもない。長く挑み続けていくべき社会全体に課せられた取り組みなのである。そのため不可欠となるのが幅広い層を対象とした地域密着型のリーダーである。そのリーダー育成に取り組んでいる大阪大学 大学院 准教授 内海桃絵氏の活動が財団の助成を受けた。
大阪大学 大学院 基礎看護学・感染管理学研究室
ナースの経験が活動のバックグラウンド
内海桃絵氏はナースとしての勤務経験を持つ大学准教授である。看護系の学部を出て病院でナースとして働き、患者のケアはもちろん、看護師教育を担当したり、各種委員会などの活動に従事していた。その後大学に戻り、修士課程と博士課程を修了して、基礎看護学を学生に指導。看護とは何か、小児からお年寄りまですべての患者さんに共通する幅広い看護技術、看護師としての物の考え方などを教えている。また、基礎看護学・感染管理学研究室において研究活動に従事している。
「看護師としての臨床経験も生かして、感染管理や看護教育、ケア開発などの研究に取り組んでいます」と内海氏は笑顔を見せる。
新型コロナの急激な感染拡大
2019年から始まった新型コロナの脅威は社会のあり方を変えるほどの大きな衝撃があった。
日本政府は緊急事態宣言を出し、WHOがパンデミックを宣言した。マスクの着用と行動制限が義務づけられ、街と交通機関から人が消えた。在宅勤務が奨励され、学校は休校となり、軒並みイベントは自粛された。
新型コロナの急激な感染拡大を目の当たりにして、内海氏が取り組んだのは関係者へのヒヤリングであった。ケアマネジャーや施設の介護士、派遣の介護士などにオンラインでインタビューし、感染の現場を把握し、何が欠けており、何が求められているのかを明らかにした。
この一環で立ち上げたのがCiPS(Community-based Infection Prevention with Sustainability)である。地域の感染対策を推進することを目指すネットワーク団体だ。
急務とされた地域リーダーの育成
一連の活動で急務とわかったのが「感染症対策に取り組む地域のリーダー」の不足であった。感染症の専門家は大病院や研究機関に集中し、必要とされる施設や地域に少ない。このため、病院や高齢者施設などでクラスターが頻発しがちになっていた。
「感染を広げるのも防止するのも『人』です。その人達に正しい知識が必要ですが、一気に浸透させることは困難です。まずは地域のリーダーを育成し、そのリーダーを核に感染対策のネットワークを作らなければならないと痛感しました」と内海氏は語る。
セミナーや研修等を充実させて、早急に地域リーダーを育成すること。この活動の支援のために着目したのが公益財団法人フランスベッド・ホームケア財団の提供する研究・事業助成であった。
財団への助成金の申請
「円滑な研究活動に公的機関等の助成金は欠かせないものとなっています。今回は、在宅や施設のケアに関わる人々を対象に感染対策の研修会を開催するために助成金を申請しました」と、内海氏は振り返る。
財団への申請目的は「地域包括ケアを基盤とした在宅ケアを推進するために必要な感染対策についての知識、技術を持つ感染対策リーダーの育成のための研修会の開催」。新型コロナ感染症のガイドラインや教育動画などは出回っているものの、実践に結びついていない状況が見られ、在宅ケア実践者からは、研修を望む声が聞かれていたからであった。
助成金を得て、大阪府のケアマネジャー、在宅および施設の医療介護に携わる人を対象に、研修会を開催することとした。研修会は次の2回が実施され、結果報告書が提出されている。
1回目 ケアマネジャー対象の研修会
1回目はケアマネジャー対象とした「新型コロナウイルス感染症の経験から学ぶこれからのケアマネジメント」の研修会、2022年12月14日に開催された。募集定員100 名に対し、対面およびオンライン含めて161名の参加者があった。
プログラムは「第1部 講演会 COVID・1 9パンデミック:過去・現在・未来」「第2部 シンポジウム 在宅コロナ陽性者の居宅介護支援のあり方を知る」。
「感染症の専門家から新型コロナウイルス感染症の最新情報、対応策や意見が聞けてよかった」「タイムリーなテーマで内容もわかりやすく、とても勉強になった」「事例を通して対応の共有ができてよかった」などの声を得ることができた。
2回目 在宅および施設の医療介護職対象の研修会
2回目は2023年3月16日、対面のみで実施している。
「テーマは『やっぱり、手指衛生』。手指の衛生はとても基本的なことなのですが、看護や介護担当者もなおざりにしがちです」と、内海氏は必要性を訴える。
プログラムは「第1部 講演 感染対策の基本は手指衛生です」「第2部 VRで学ぶ手指衛生 あなたと利用者さんを守るために」「第3部 グループワーク いつ手指衛生しますか?」
「感染予防にはこまめな手指衛生が大切なことを再確認できた」「自分の手指衛生が不十分だったと反省した」。VRコンテンツについては「おもしろかった」「リアルな体験ができ、手指衛生に気をつけようと思った」などの声が上がった。
財団の助成金は自由に使えて便利
「助成金をいただいて大変助かりました。貴重な機会だったと思います。フランスベッド財団の助成金は比較的自由に使えるところが魅力です」と、内海氏は助成金の有用性を語る。
新型コロナのみならず、感染症対策は社会的課題であり、これからも継続していかなければならない。
「地域リーダーの育成はこれで終わりではありません。地域の感染対策の強化は、一時の活動だけではできません。これからも地域のリーダーの育成はもちろん、活動を支援できるような新たなコンテンツを開発し提供していきたいと思います」と内海氏は今後の活動に意欲を見せた
連絡先
〒565-0871
大阪府吹田市山田丘2-2
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻
Tel:06-6879-5111(代表)
10月1日より、京都府立医科大学医学部看護学科
〒602-8566
京都市上京区河原町広小路上る梶井町465
Tel:075-251-5111(代表)