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公益社団法人 認知症の人と家族の会
代表理事 鎌田 松代氏
「家族の会」のさらなる周知、
そして当事者の声を社会に届けること。
私もここから始めます。
認知症と向き合う人に追い風が吹いている。この6月、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が国会で成立した。9月には、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の承認が厚生労働省の専門家部会で了承され、年内に実用化される見通しという。認知症当事者の中で最大規模の「認知症の人と家族の会」は、この好機をいかにとらえ、今何を発信しようとしているのか。この6月に新代表に就任したばかりの鎌田松代氏に聞いた。
公益社団法人 認知症の人と家族の会
●プロフィール かまた・まつよ
1956年佐賀県生まれ。佐賀県の看護学校を卒業し、滋賀医科大学医学部附属病院に勤務。看護師として脳神経外科や整形外科に勤務。1990年「認知症の人と家族の会」に入会。2007年理事、2019年事務局長を経て、2023年6月より代表理事。趣味はテニス、コーラス、フィツトネスなど。
週3日は家族の会の代表、週2日は
看護師として医療介護・連携(支援センター)
1980年1月に京都で結成された「認知症の人と家族の会」(以下、家族の会)。その名の通り、認知症の人とその家族を中心とする当事者団体で、全国47都道府県のすべてに支部がある。会員数は9700人。この6月から代表理事を務める鎌田さんと家族の会との出会いは1990年に遡る。
佐賀県の看護学校に学び、看護師としてのキャリアを大学病院の脳神経外科や整形外科からスタートしました。在宅看護に興味を持つようになったのは、1981年、義父が脳内出血で倒れ高次機能障害になってから。介護離職し4年間お世話をする中で、「自宅に戻った患者さんたちの生活がここまで大変なものなのか」と思い知らされました。
認知症の問題が少しずつ表面化しつつありましたが、現在の老年看護は当時の看護教育の中では成人看護に含まれていました。専門的な老年看護や認知症のことは課目にはありませんでした。そんな中、1990年、京都市の社会福祉協議会が、認知症の人に特化した宅老所をつくろうと調査研究事業のボランティアを募りました。急性期医療から在宅看護へ、これに応募したことが私の分岐点となりました。
ボランティアに、「家族の会」の会員がいました。その方は認知症の人への対応が上手でした。ところが私は専門職でありながら、認知症についてはほとんど何も知りません。「家族の会」の活動に参加するというより、当時の私は認知症の知識や情報を得るために入会したといえます。
家族の会は47都道府県のすべてに支部があり、支部役員を世話人と呼んでいます。世話人の皆さんが“つどい”、会報の発行、電話相談などを行っています。ボランティア組織ですから、本部の事務局員を除けば、一部の支部を除き皆さん無給。理事も全部ボランティアなんですよ。私の場合、週3日は家族の会、週2日は西京医師会が京都市より委託を受けた「在宅医療・介護連携支援センター」に勤務しています。
センターでは、認知症になっても安心して暮らせる西京区をつくるために西京医師会が中心となり、地域包括支援センターや地域役員、行政関係者などと西京区認知症地域ケア協議会が設立され事務局として地域の認知症啓発や公開講座などを行っています。そこで浮かび上がった課題を家族の会の活動に反映させることもしばしば。家族の会と在宅医療・介護支援センターで働くという2足のわらじは現場を知る意味でとても役立っています。
「認知症基本法」が成立
国の認知症対策が示された
鎌田さんは、家族の会としては3人目の代表となる。2007年から理事、2019年から4年余り事務局長を務めており、“会の顔”となるのは自然の流れといえよう。代表就任と前後して、6月に「認知症基本法」が国会で成立。9月にはエーザイなどが開発したアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が厚生労働省で承認された。
いいことが2つも続いて、今年は認知症に対する関心がすごく高まった年になったと思います。私たちが掲げる『認知症になっても安心して暮らせる社会』という理念を達成するための追い風になっています。
認知症基本法は、認知症に対する取り組みを国が法律で示したということで、非常に意義が大きい。国が認知症対策を責任をもってやりますよ、総理大臣が基本的な計画を立て、それを各都道府県におろし、都道府県は実態に応じたかたちでそれを推進していきなさいと道筋が示されました。
それだけでなく、国民に対して、認知症を正しく理解することは責務ですと宣言している。家族の会にとってはもちろん、日本の認知症政策におけるとても画期的な出来事となりました。
新薬「レカネマブ」は、「認知症は治療できない病気」というイメージに風穴を開けました。家族の会にも、問い合わせがあります。早ければ年内にも実用化される見通しですが、重度に進んだ認知症の症状を改善させるクスリではなく、医療費がかなり高額になると予想されるなど、適用対象者は限られます。
それでも、新薬の登場はさらなる治療薬の開発に向けて弾みになると思うし、期待は大きいです。画期的な新薬だけに、家族の会としては、正しい情報の発信に全力を注ぎたいと考えています。国や医療機関、製薬企業には、対象者や効果、その安全性についてわかりやすく、繰り返し発表してほしいと思います。
家族の会の会員数は年々増え続け、2009年に1万人の大台を突破したが、昨年は1万人を割り込み9700人に減少した。今後も認知症患者が確実に増えていく中、会員減少をどうとらえたらいいのだろうか。
介護保険制度や当事者の声を届けるなどの社会運動をやっていくには、会員の数はすごく大切です。家族の会もできるだけ会員を増やしたい。一時期は認知症患者の1割くらい、2025年には認知症の人は約700万人になるといわれるので、1割の70万人を目標に掲げたこともありました。
しかし、時代や人々の価値観も大きく変わりました。昔は、私のように認知症のことが勉強したくて入ったが、今はインターネットもあるし、書籍もあるし、入会しなくても情報が得られます。また、入会しなくてもつどいに参加できるし。電話相談もしかりです。
会の結成当時からの会員が高齢になったのも影響しています。80・90代になり亡くなる人も。入会する人が増えてはいるけれど、それ以上に退会する人が増えている。当事者運動の会はどこも同じで悩みを抱えている。でも、1万人というラインにはこだわりたいと思っています。
9月21日は世界アルツハイマーデー。日本では家族の会が中心となり、全国各地で啓発活動や記念講演などが催された。「もっと知ろう、もっと語ろう認知症」「他人事から、自分事に」──イベントのリーフレットのキャッチコピーに若干の違和感を覚えた。なぜなら、あまりに言い古されたフレーズが使われていたからだ。
そう思われるかもしれませんが、それは大きな誤りです。ここまで言わなくてはならないのが現実で今もあるのです。認知症がこれだけ身近な存在になっても自分事としてとらえ、認知症を正しく知っていただきたいです。会場の参加者に「家族の会」を知っておられるか聞きますと、一割の方しか会の存在を知っている人はいませんでした。
今年9月から、孤立する認知症の人や介護家族をゼロにし、当事者のつながりを守り続ける目的でクラウドファンディングを開始しました。昨年初めて実施したのですが、寄付者の3分の1が会の存在を知らず、「こんなに素晴らしい活動をやっていたんですか」と驚かれました。
また、講座などで認知症のご本人が体験を話すと、必ず「こんなに理路整然としっかり話せる人は認知症なの?」という反応があります。家に戻れない人、お漏らしてしまう人、何もしゃべらない人、わからない人というイメージなんですね。認知症サポーター養成講座の受講者は1400万人を数えるけれども、受講されていない方は正確に理解ができているとはいいがたい。
このように、皆さんが考えるほど家族の会は知られていません。一般の人のみならず、ケアマネさんの中にも知らない人が少なくない。これか最大のネックなんです。また認知症への誤解と偏見も多いです。だから、代表となって私がやりたいことの一番は、家族の会をもっと知っていただくことと、当事者の声を社会に届けること。ここから私も始めたいと思います。
専門職の方は、まず家族の会を知ってほしい。時間がなければ、ホームページをのぞくだけでも結構です。そしてケアマネさんは、できたら私たちのつどいに利用者さんを連れて参加してください。ご家族もそれなら安心できると思います。
連絡先
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