福祉用具の活用事例Examples of welfare equipment utilization
徘徊感知器「itsumo3」
酒井啓子様ご家族
備えて安心
高齢者の認知症徘徊の切り札
高齢化の進行とともに、認知症の患者数も年々増加の一途をたどっている。認知症は、記憶や判断力の低下を引き起こし、徘徊などの行動が見られることがあり、これにより行方不明となるケースが増えている。
24時間での見守りが難しい中、家族や介護者が安心して暮らしを続けるために開発されたのが外出先の現在地を追跡できる小型GPSである。その代表例が徘徊感知器「itsumo3」だ。東京都武蔵野市吉祥寺にお住まいの酒井啓子様は、母親の徘徊リスクに備え、「itsumo3」を導入。「母の安全だけでなく、私たち家族の気持ちにも余裕が生まれました」と話している。
人気の街、吉祥寺で
東京都武蔵野市に位置する吉祥寺は、長年「住みたい街ランキング」の上位に君臨し続ける人気エリアである。駅前には大型商業施設や個性的なショップ・カフェが立ち並んでいる。少し歩くと閑静な住宅街で、井の頭恩賜公園の豊かな自然が日常に潤いを与えてくれる。
吉祥寺は多世代が住む街並みでもある。 若者のカルチャーが根付いている一方で、昭和世代から住んでいる人々がそのまま高齢化し、地域の中核を担っている。
「吉祥寺は本当に住みやすい街です。駅近く、井の頭公園にも歩いて行けます。安全性も良く、近所の連携も密で、何かあればLINEなどですぐに連絡を取り合えるような関係が築かれています」と酒井様は笑顔を見せる。地域で高齢者を守る意識があり、家族同士で介護や徘徊の状況を共有する文化が酒井様のご近所では育まれているという。
母の変化と「itsumo3」との出会い
酒井様ご一家は、長年住み慣れた家で穏やかに過ごしていたが、ある時期から母の認知症の様子が現れ始めた。
3年ほど前のこと、酒井様のもとに警察から「お母様らしき方がいる」との連絡が入ったことがある。驚いて出かけると、母が一人でおり、直ちに保護できた。徘徊の兆候を実感した瞬間であった。
その後、母親は転倒をきっかけに介護度が上がり、昨年には一気に要介護4まで認定がなされた。これを機に、在宅介護支援を受ける中でフランスベッドの担当者が訪問し、福祉用具の提案を受けた。
「itsumo3」を勧められたのは、母が元気を取り戻し、「外に出たい」と玄関へ向かうようになった頃であった。その時にフランスベッド担当者に勧められたのが徘徊感知器「itsumo3」であった。
「フランスベッドにはいろいろお世話になっています。電動介護用ベッド、トイレやお風呂場の手すり(転倒防止)、杖そして『itsumo3』です」(酒井様)。
「itsumo3」は、GPS機能を搭載し、靴に装着することで使用者の移動を追跡できる装置である。
活用の工夫と三重の支援
導入当初は、まず中身のない「itsumo3」の外枠を靴に取り付け、履き心地に違和感や不安がないかを確認した。
「充電もスマホと同じUSB-Cで、月に1度程度しか充電の必要がありません。普通の靴は隠し私が仕事でいない時だけこの靴を玄関に置く方法で使っています」と酒井様。母は父(介護度1)ととともに平日(月~金)は毎日デイケアに通っており、帰宅後も一人でいることはない。しかし、夫婦共に90歳。母は元気なのだが、父は居眠りが多い。父もいない時は大学生の孫息子もいる。
「私がいないまま本人が一人になることは絶対にありません。父がいますが、もう弱くてあてにならない。もし、『itsumo3』が通知してきたら電話で父を起こして対応します。第二段階として大学生の孫に連絡し、時間帯によっては協力を仰げます。そして第三段階として、近所に仲の良い方がいるので、助けてもらえる体制ができています」(酒井様)。
このように三重でケアしているのだが、もしものことはある。
導入後のリアルなエピソード
ある日、酒井様と父親が病院へ行っている間に、大学生の孫が一時的にコンビニへ出かけた。母親はその後を追ったのか外出してしまったようだ。
即座に「itsumo3」が反応し、酒井様のスマートフォンに通知が届いた。 帰宅中だった酒井様と父親は、アプリで居場所を確認し、タクシーで現場へ直行して、事なきを得た。
「これまで母が外に出てしまうのではないかと常に気を張っていましたが、『itsumo3』を靴に付けてからは、心理的な負担が格段に減りました。仕事で外に出ている時も、スマホで母の居場所をすぐに確認できるので、『ああ、まだ家にいるな』『動いてないな』とすぐに分かるんです」と「itsumo3」のメリットを酒井様は語る。酒井様にとって、「itsumo3」は単なる機械ではなく、日常に“安心”をもたらしてくれる家族の一員のような存在となっている。
今後の改良への期待
現在の「itsumo3」には満足しているが、酒井様は今後改善への期待も抱いている。
現在使用している靴は、「itsumo3」専用のものである。紐靴だから「itsumo3」を取り付けやすい。当初普段履きの靴に付けることを考えたが、穴がなかったため断念した。
確かに、取り付けが“紐靴限定”あるいは、靴に穴が必要というのが、ハードルである。製品も黒く大きい。夏場などはサンダルやファスナーの靴も選びたい。「取り付け先が限定されているのが残念。もう少し汎用性のある取り付け方法にしてもらえたら、もっと使いやすくなる」と、これからの期待を語る。
「itsumo3」は、徘徊リスクのある高齢者とその家族のために、心から安心できる環境を提供してくれる存在である。酒井様のように、「まだそこまで頻繁ではないけど、備えておきたい」という家庭にとっても、簡単に導入でき、使いやすく、徘徊しがちな家族には心強い味方となる。