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ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

在宅ケアケース事例Home care case example

白澤 正和氏

国際医療福祉大学大学院教授

白澤 政和

医療保険、介護保険、障害者福祉サービスも。
多面的な支援が可能な難病のケアマネジメント。

今回は、難病患者に対するケアマネジメント事例である。一口に難病と言っても348疾病もあり、それぞれの難病によりケアマネジメントは異なったものになる。本事例の多系統萎縮症は、難病であるだけでなく“介護保険法の加齢に伴う特定疾病”に該当することから、40歳以上65歳未満の人は介護保険のサービスを使うことができる。また難病は、2013年に施行された「障害者総合支援法」の中で障害者に位置付けられている。そのためAさんは、医療保険と介護保険の併用に加え、障害者を対象とした福祉サービスも受けられる。こうした観点に立ち、多面的な支援の可能性について考えていただきたい。

今回の事例

蛯谷 典子氏

セントケア東京株式会社
居宅介護支援部門
マネジメントアドバイザー

蛯谷 典子

医療行為は医療保険の適用となる

 Aさん(64歳・女性)は、マンションにご主人と二人暮らし。多系統萎縮症という難病を患い、在宅で療養生活を続けています。2年前、地域包括支援センターから、「ご主人ががんで入院するため、奥様にショートステイを紹介してほしい」という紹介が居宅介護支援事業所にあり、この神経難病患者を数例担当した経験があったため担当することになりました。

 多系統萎縮症は、脳のさまざまな部位が障害を受けることで発症し、歩行時のふらつきや呼吸障害などの症状が現れます。同じ神経難病のパーキンソン病に比べ、50~60代と比較的若くに発症し、症状の進行が速いのを特色とします。ただ、その当時のAさんは要介護1で、歩行もしっかりしていて、さほど大きな問題がありませんでした。診断がおりたのは当時6年前というので、私の知る過去の事例と比べてもずいぶん経過が緩やかでした。逆にこれから先が大変だなと思いました。

 国の指定難病のため、医療行為は医療保険が適用されます。したがって、介護保険からのサービスは訪問介護と福祉用具だけですが、難しい事例であることに変わりありません。今後に大きな変化をすることを見越して、情報連携・共有しやすいように自社の訪問看護、訪問介護を利用することとし、派遣するヘルパーもみな介護福祉士の有資格者を依頼しました。

自分でやりたい、他人を入れたくない

 訪問を重ねる度に、少しずつAさんの症状は悪化していきました。歩行には杖やストックを使っていましたが、次第にふらつきが出始め転倒リスクが高まってきたので、室内の要所に手すりをつけるとともに、PTやOTのアドバイスもあり、歩行器を導入しました。Aさんは年齢が若いこともありますが、他人の世話になりたくない、なんでも自力でやりたいという思いが人一倍強い人です。主たる介護者のご主人もまだ現役で、他人が家に入ることを好みません。

 いちばん苦労したのは食事と入浴です。食事は優に1時間、入浴は着替えを含めると2時間以上も費やして支援しています。しかし、昨年末頃から嚥下機能や筋力低下が急に進み、座位の保持が大変な状況になってきました。入浴も、医師は訪問入浴をすすめますが、これも受け付けず今日に至っています。

看護師とヘルパーの2人体制で入浴

 介護保険では、原則として訪問介護と訪問看護を一緒に利用することはできません。しかしこのケースでは、看護は医療保険から利用できるので、週3回の入浴は時間を合わせ、看護師とヘルパーの2人体制で行うことにしました。また呼吸を安定させるため、主治医(大学病院呼吸科)のすすめで「カフアシスト(痰を出やすくする器具)」を導入、その支援のために訪問看護を利用することとしました。

 良い意味で健常者意識が強いAさん。パッドはあてているもののリハビリパンツすらはいていません。トイレは自分一人ですませ、介助者も中に入れません。しかし、一人では下着を上げるなどの動作が難しくなっています。ベッド上での食事も拒否されます。素敵なダイニングテーブルでの食事にこだわります。車椅子3台を使い分けるようになったのも、PT・STの粘り強い説得があったからです。毎日の食事をヘルパー介助で行うことさえ、1年かけてようやく実現しました。

ダブルドクターも考える時期に

 今は大学病院に通院していますが、何かあったときに私たちだけでは咄嗟の対応は困難です。早い段階でダブルドクター、つまり大学病院には行きつつ、訪問診療の先生にも入ってもらい、身近な対応をしてもらおうと考えています。いずれ決断の時がやって来ると考えられます。食事がのどを通らなくなった場合の胃ろうの設置、呼吸が苦しくなれば人工呼吸器の利用がテーマになっていきます。また、施設入所についても考えることが求められてきます。

 難病の方へのケアマネジメントは難しいというのが実感です。医療処置は医療の専門家に任せられるといっても、介護と医療は切っても切り離せない関係にあり、全体を見通すことができなければ適切なケアはできません。もちろん、プライバシーと自立を大切にするAさんの要望に沿った支援を心掛けたいと考えています。これからが本当の意味で真価が問われる時期となります。

今回のポイント

介護保険外のサービスを求められても
つねに適切な支援やアドバイスができるよう
利用者との信頼関係を構築しておく。

●自分でやりたいという意欲を尊重する

 Aさんの現状は要介護4。食事や入浴等が全面介助を余儀なくされる中、排泄については自分で行っているように、自分のことは自分でやりたいという思いが強い人である。このような人のケアマネジメントは、本人の自立に向けた意欲を尊重した姿勢で臨むことが最も重要になる。医療保険と介護保険の併用、さらには障害者福祉サービスも使えることから、ケアマネジャーとしては多彩なサービスを提案したい気持ちになるだろうが、第一はご本人の思いを尊重すること。そして、Aさんのリスクに対応しながら、介護保険以外の支援やアドバイスを求められたときにはいつでも対応できるように、環境・状況を整えておくことが重要である。そのためには、日ごろから利用者との信頼の絆を強くしておかねばならない。

●医師・看護師との情報交換を密に

 医療的ニーズが極めて高い利用者の場合は、状況の変化を正しく理解するために、医師や看護師との円滑な情報交換が不可欠となる。現在、身近な医師との連携の下で支援をしていこうと「ダブルドクター」を検討中というが、それは極めて有効な支援と言えよう。入浴に関しても、医療保険の看護師と介護保険でのヘルパーが一体となって支援をするなど、両保険を併用できるメリットをうまく生かしている。きわめて適切なサービス利用がなされていると評価したい。

●インフォーマルな係わりと緊急時の対応

 ご主人は就労しており、日中はAさん一人の生活となる。医療ニーズが高い利用者にして専門職だけで支えているのが現状であり、その専門職も常時関わっているわけでもない。そうした介護の空白を少しでも減らすために、インフォーマルなサポートにも目を向けておきたい。例えば近隣の住人とか昔からの友人など、緊急時に対応できる関係を整えておく必要もあろう。公的には、緊急通報のサービスなども有効だ。経済的余裕があればセキュリティ会社と契約するなり、市町村が実施している緊急通報装置の利用も一考したい。

●障害者福祉サービスの活用

 難病患者ということは、同時に障害者でもある。介護保険のサービス利用が原則であるが、介護保険で対応できない場合には、障害者総合支援法のサービスが利用できる。これを上手に活用することで、Aさんへの支援はさらに厚みを増す。介護サービスだけでなく、様々な日常生活用具が給付され、補装具の提供もある。コミュニケーションが難しいのであれば、情報伝達の機器を活用するなど、障害者福祉サービスにきめ細かく目を通すべきである。

●ターミナルに備える

 将来、胃ろうをつくるかどうか、最終的に人工呼吸器を装着するのかどうか。本人の意思決定を支援していく時期がやがておとずれる。ターミナルはどこで過ごすのか、また医療処置をどこまでやるかなど、本人の意向はなるべく早い時期に確認しておきたい。信頼関係がないとなかなかアプローチしづらいが、ご主人を介してもいいので、医療関係者も交えた話し合う機会をつくっておくことだ。もちろん、本人の意思決定が最優先されるが、人は状況により変わっていくし、一度下した意思決定も時間とともに変化していくもの。確認作業は定期的にやっていかねばならない。ターミナルに近づくほどに、ケアのテーマは意思決定の支援に移行していく。繰り返しになるが、ご本人はできる限り自分でやりたいという強い意思を持っている。これを尊重して支援していくことだ。

障害高齢者の日常生活自立度/B1

認知症高齢者の日常生活自立度/Ⅰ

既往症/多系統萎縮症 子宮脱 呼吸不全

食事/リクライニング車いす使用。姿勢保持したうえで介助必要。

排泄/トイレに執着。車椅子を利用し、見守りで何とかできる。
リハビリパンツははいていない。

入浴/訪問看護・介護時に自宅浴室にて。2人体制で。

ADL/下肢筋力低下が進み、自分でできないことが増えている。

IADL/家事はすべて夫。電話での会話は難しいが、メール対応可能。

家族/夫と二人暮らし(同年齢の夫は就労しており、日中は一人)

利用中のサービス
訪問介護/月水金の朝=食事介助、火・木の昼=身体介護
訪問看護/月・水・金の午後=入浴介助+カフアシスト(痰を出す医療機器)対応
PT、OT、ST/週1回
福祉用具レンタル/歩行器、車いす3台(室内用、外出用、リクライニング付)、手すり、特殊寝台及び付属品

※本人およびご家族の許可を得て掲載しています。(一部修正あり)

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