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ご意見・ご感想

ふれあいの輪は、新しいホームケア・在宅介護を目指して、
(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
運営されています。

ふれあいの輪

在宅ケアケース事例Home care case example

白澤 正和氏

国際医療福祉大学大学院教授
日本ケアマネジメント学会理事長

白澤 政和

一人暮らしの認知症の人への支援

 一人暮らしの重度の認知症の人は、通常、自ら相談機関に足を運ぶことはないのでケース発見そのものが難しい。また、ケアマネジャーがアウトリーチ(積極的に出向く)したとしても、生活相談やサービス利用の提案を拒否される場合が多い。しかしながら本事例は、近所に息子夫婦が住んでいることもあり、一人暮らしの認知症のある人であるが、自己決定・選択の余地もあるケースである。こうした“準一人暮らし”ともいうべき認知症の利用者に対する支援のしかたを考えてみたい。

今回の事例

髙木 はるみ氏

京都市内の居宅介護支援事業所勤務
主任介護支援専門員

髙木 はるみ

支援経過

独居で認知症が進む

 Aさん(82歳男性・要介護3)は、生活保護を受けながら京都市内の木造アパートに独居しています。若いころは自動車整備工場を経営するなど頑張ってきましたが、経営難から倒産。その後は職を転々として老境を迎えました。子どもは2人いますが、離婚により長女は妻が引き取り、長男は男手1つで育てました。

 10年ほど前、長男夫婦に呼び寄せられて京都で独り暮らしを開始しました。意欲の低下による引きこもり、深酒、身のまわりの物の放置が始まり、喫煙と失禁により畳が腐るなどごみ屋敷の様相を呈していたといいます。幸い、長男夫婦との関係は現在も良好で、生活費の管理や通院介助は長男が担当しています。

 目下、心配なのは、アルツハイマー型認知症の進行により物忘れがひどくなり、自分でできることが日に日に少なくなっていること。最近は、不在だと思ったらご近所の植え込みにポツンと座り込んでいたり、買い物に行ったまま家に戻れなくなったりすることも増えてきました。

小規模多機能型居宅介護から引き継ぐ

 私がAさんを担当したのは1年前から。それまで契約していた小規模多機能型居宅介護(小規模多機能型)が閉所になり、当事業所がそのまま利用者さんを引き継ぐことになりました。その際苦労したのは、小規模多機能型ゆえに様々な介護サービスを一つの事業所がまとめて提供できていたのを、各サービス事業者に振り分けねばならなかったこと。ケアプランを一から組み直し、当人が最も必要とするサービスを吟味して提供することにしました。

 欠かせないのは週2回のデイサービス。ヘルパーさんを毎日利用しているので、その流れでデイに送り出すことができます。そして週1回の訪問看護。看護を利用した理由は病気の早期発見ができるから。認知症が進んで体調変化を自分で訴えることが難しくなっているのと、糖尿病があり感染症に対する免疫も落ちていると判断しました。

 生活保護を受けているので、医療費や介護保険のサービス利用料は無料となります。しかし、デイサービスでの食事代や配食サービス(毎夕)などは実費負担となります。自己負担は小規模多機能型の時よりも高くなってしまいました。

行政のサービスを有効活用

 介護保険外のサービスとして、配食サービス(夕食)のほか、自治体の無償サービスを有効に活用することにしました。京都市は高齢者や障害者支援の施策が充実しています。その一つがゴミ出し。ごみ出しが困難な人のために、無料で自宅の玄関先までごみの収集に来てくれる「ごみ収集福祉サービス(まごころ収集)」を申し込みました。また「高齢者あんしんお出かけサービス事業」にも登録。これは、高齢者の位置を特定できる小型GPS端末機(貸与)を携行することで、所在がわからなくなった時などに位置情報を知らせてくれるサービスです。徘徊の頻度が増えていくであろうAさんには心強いサービスです。

特養3ヵ所に申請を済ませる

 本事例で今から考えておかねばならないのは、認知症がさらに進んでいよいよ独居が困難になった場合にどうするかです。当人は現在のアパートが気に入っているようですが、いずれ施設入居のタイミングが訪れます。

 最近は、生活保護の人でも入れるサービス付高齢者住宅が出てきたと聞きますが、Aさんの場合は特養、それもユニットタイプだと部屋代が出せないので多床室に限定されます。ところが特養の特性上、男性の多床室は少なく、1施設に1部屋か2部屋で競争率がすごく高くなります。そこで、今から3ヵ所ほど申し込みをしており、順番が来たらすぐに移れるようにしています。

 施設入所についてはご家族も希望しているので、問題はありません。要介護3の現状ではまだ時間がかかるかもしれないので、要介護4になったら改めて申請し直そうかと考えています。 

(令和8年2月末時点)

障害高齢者の日常生活自立度/A1

認知症高齢者の日常生活自立度/Ⅲa

同居者/ナシ(独居)

公的扶助/生活保護受給

既往症/アルツハイマー型認知症

    下肢閉塞性動脈硬化症

    腰部脊柱管狭窄症

    2型糖尿病

利用中のサービス

    訪問介護(毎日)

    訪問看護(週1回)

    デイサービス(週2回)

    配食サービス(毎日=夕食)

    ゴミ収集(京都市)

    小型GPS端末機(京都市)

※本人およびご家族の許可を得て掲載しています。(一部修正あり)

今回のポイント

地域の多様なサービスをいかに組み合わせて使うか
──在宅のケアマネジャーの妙味はそこにある。

●大事なのは本人の意思決定支援

 ケアマネジメントにおいて大事なのは「意思決定支援」と言われる。意思決定支援とは、利用者本人が自身の生活や将来について主体的に決定できるようサポートすることだが、中にはここで大きな思い違いをする人もいる。本事例のように独り暮らしの認知症の人の場合、通常、当人からの積極的な意思表示はない。しかし、サービスを利用しないとか相談を受けないこと自体を本人の意思決定だととらえるのは禁物である。なぜなら、こうした働きかけに対して後ろ向きな人たちにもサービスを利用する権利があるからだ。また、意思決定の中には意思を形成するための支援も含まれることを、ケアマネジャーは忘れてはならない。

●社会資源の有効活用ができている

 独り暮らしの人を支援する場合は、介護力となる家族のサポートがない分、社会資源を有効に活用しなければならない。社会資源が少ない地域では、ケアマネジャー自身が電球を替えたり買い物のために外出する、いわゆるシャドーワークが発生しがちだが、本事例の場合そうした傾向は見られない。長男夫婦が近くに住んでいて純然たる独居でないこともあるが、介護保険外のサービスとして行政のごみ収集サービスや小型端末機貸与サービス、さらには民間の配食サービスを有効に活用している点を評価したい。

●小規模多機能から引き継ぐことの意味

 ケアマネジャーが利用者を引き継ぐ場合、一般には居宅介護支援事業所から引き継ぐケースが多いため、サービスを新たに一から組み直す必要はない。しかし、小規模多機能居宅介護から引き継ぐ際は、新たなケアプランの作成が必要になる。小規模多機能は、通い(デイサービス)と訪問(ホームヘルプ)と泊まり(ショートステイ)を組み合わせた自己完結型のサービスであるのに対し、在宅は多種の事業者が多様なサービスを提供する場。本事例の場合、小規模多機能の通所介護と訪問介護以外に、介護保険のサービスとして訪問看護を新たに追加した。

 さらには、小規模では自己完結的に見逃す可能性も高い、認知症の診断や症状緩和に向けて、医師の支援や受診等については良好な関係にある息子夫婦のサポートも有効である。

 このように、所属する事業所ごとにケアマネジャーの立ち位置や役割も違ってくる。小規模多機能のケアマネジャーは、一般に、小規模のサービスをいかに使うかに関心があるが、在宅のケアマネジャーは地域の多様なサービスをいかに組み合わせて使うかに関心がある。小規模多機能から一般の居宅介護事業所に移ることによって、Aさんはさらに厚みのある介護サービスを受けられるようになり、結果としてQOLを上げることにつながったと言えるかもしれない。

●新しい認知症観を踏まえて

 2024年12月、国が策定した認知症施策推進基本計画に、“新しい認知症観”が示された。認知症の人がしたいことができる──ケアマネジャーはまさに、当人がしたいことや好きなことを支援することを、本人の意思を確認して支援していくことが重要である。Aさんの意思を十分に確認できないとしても、そういう思いをもって家族を交えて特養の話をすることに意味がある。本事例のケアマネジャーは、やがて訪れる施設入所に向けて早目の準備が必要だと考えたと思う。生活保護を受けている場合、施設入居には制約が生じる。自己負担がかからない多床室を希望しているが、男性の場合は狭き門となるという地域の実情を踏まえてのアプローチは高く評価してよいだろう。家族の了解は取れているけれど、本人については必ずしも十分とは言えないが、3カ所の特養を申請しているということは、本人が最終的に選択できるよう配慮してのことだろう。