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(公財)フランスベッド・ホームケア財団によって
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ふれあいの輪

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松岡 千代氏

特定非営利活動法人 災害看護支援機構 
副理事長 事務局長
甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 
看護学科 老年看護学 教授

松岡 千代

高齢者の災害対策とは?
地域ぐるみのコミュニケーションと訓練
災害時は「水分」「栄養」「薬」を忘れないで!

2023年1月1日の能登半島地震以降、「災害対策」が叫ばれるようになった。もとより日本は地震大国である。地震への恐怖は身にしみているものの、その対策や準備が万全かというと心もとないところがある。ましてや高齢者となると、日ごろからの準備も災害時の避難にも限界があるだろう。高齢者は普段からどのような準備を重ね、どのように対処すればいいのだろうか。災害時の高齢者支援に詳しいNPO法人「災害看護支援機構」副理事長であり、甲南女子大看護リハビリテーション学部の松岡千代教授(老年看護学)を訪ねてお話を伺った。

甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 看護学科

甲南女子大学

災害看護の専門知識を持つNPO団体

災害の規模が大きくなればなるほど、避難所や仮設住宅での生活が長くなり、中長期にわたって専門知識を持った看護が必要となる。このニーズに応え立ち上げられたのがNPO法人「災害看護支援機構」である。きっかけは1995(平成7)年1月の阪神・淡路大震災。「もう30年近く前になりますが、神戸市は揺れが特に激しかったところで、阪神高速道路が横倒れしたのは、本学の南側(海側)になります」と、甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 看護学科 老年看護学教授の松岡千代氏は語る。

発足以来、災害看護支援機構は積極的に活動を展開し、近くは能登半島地震(2024年)や秋田県五城目町の水害(2023年)、さらには熊本地震(2016年)、鬼怒川の堤防決壊(2015年)、広島市の土砂災害(2014年)、東日本大震災(2011年)などで活躍している。NPO法人の創始者のひとりであり元理事長の黒田裕子氏がNHKスペシャルで取り上げられたこともあるから、知っている人も多いかもしれない。

災害発生後、病院や高齢者施設などのケアスタッフの数は圧倒的に不足する。避難所や仮設住宅ができても、それはあくまでも仮であり、常の住宅ではない。被災した地元の高齢者施設にもなかなか支援の手が届かない。そんな中でケアを継続している職員は肉体的にも精神的にも疲弊してしまう。今回の能登半島地震では「支援者支援という立場で、高齢者施設での支援活動をしてきました」(松岡氏)。

災害時の写真

高齢者の日ごろの対策とは

災害の際、取り残されがちとなるのは、要配慮者・避難行動要支援者と呼ばれる、高齢者や障害者をはじめとする方々である。それではどのようなことを準備する必要があるのだろうか。

「日頃からの地域の中でのつながりです。コミュニケーションです」と松岡氏は断言する。

普段から自治体、さらには自治会単位で、どこにどういう人がいるのか確認し、知り合いになっておいて、その方をどう助けるかを対策しておくことが求められるという。

「自助・共助といいますか、地域で仕組みづくりと訓練をしていくことが重要となります」(松岡氏)。

いざとなった時に一緒に逃げ出すことができる、あるいは助け出すことのできる地域でのつながりを作っていることが準備となる。

このことを行政は認識しているものの、避難訓練まで実施しているところは少ない。

兵庫県や神戸市では、ケアマネジャー等が要支援・要介護のケアプラン作成時に、災害時の緊急連絡先や避難先等を記載していくことが推進されている。しかし、それぞれに日頃の業務を抱えての作業となるため、負荷が大きいのが現状だ。行政に加えて、居住地域での住民同士の取り組みとして、災害に備えて「とにかく地域がみんなで助け合う。古いけれども『向こう三軒両隣』の意識が重要となります」と松岡氏は強調する。

必須となる「水分」と「栄養」

それでは高齢者の方を含め、どのような準備が必要なのだろうか。まずは水と食料の用意として、大規模災害では3日分では足りないので1週間分がいい。ローリングストック(普段から食料品などを少し多めに購入し、使った分だけ新しく買い足していくこと)を心掛け、日頃から災害の備えを意識する。

しかし、要支援・要介護とされる高齢者がリュックを背負って外に出ようということ自体に無理がある。避難先に食品があっても、入れ歯を忘れて冷たくかたいお弁当は食べられないということもある。

「まず必要なのは水分と栄養分です。これを併せ持っているゼリードリンクを私はお勧めしています」と松岡氏は語る。ゼリードリンクであれば水分を補給できるし、カロリーも含まれている。容易に飲み込むことができ、誤嚥の危険性も少ない。乾パンのように乾燥しているものは喉に詰まりやすい。「あとはレトルトのお粥やスープなどのように少しとろみのついたものがあると便利です。これらを災害用備品として用意しておくことをお勧めしています」(松岡氏)。

薬は「お薬手帳」も忘れずに

加えてお年寄りに必須となるのが薬である。

降圧薬や抗血栓剤など、継続して服用しなければならない薬は多い。いざという時に、持ち出しを忘れてしまう危険性がある。薬の名前を覚えていればいいが、それもあまり期待できない。

「そこでお勧めしているのが『お薬手帳』を持ち出しましょうということです」と、松岡氏は説明する。

日頃の準備としてはこのお薬手帳をアプリ化しておくことを推奨している。これは本人では困難かもしれないので、子供や孫に頼んでおいた方いいかもしれない。本人がアクセスできなくても、親族が確認できる仕組みにしておく。どのような災害でも、薬データはクラウドにあるから、スマホが使えてアクセスすればすぐに確認できる。

1週間は自力で努力

災害時、行政が手を差し伸べてくれるが、それがいつになるかは確約できない。あらゆる人が今すぐと希望するが、これは困難だ。最低でも数日はかかる。まず自分でできる範囲のことを準備し整えておかなければならない。「最低でも3日、できれば1週間は自力で持ちこたえることのできる体制を整えておくことが不可欠になるでしょう」と松岡氏は語る。自分の力で生き残ること、自助が大前提となるのである。

しかし、自分でできる方はいいが、できない方をどうするのかというのも、併せて考えなければならない。この視点で考えなければ助けられる命を守っていくことができない。

「自力で逃げられない人をどうやって避難させ救出するかというのは事前に考えて訓練にしておかないと、いざというときに助けられません」と、松岡氏は訴える。

実際、能登半島地震では、外部からの救援・支援が届くのに随分と時間がかかった。道が寸断され、もともと細い道も多く渋滞の課題もあった。主要道路が整備され、支援や物資が届くのには時間がかかる。その間、被災地域において自分たちだけの力で持ちこたえなければならない。

「災害時は『水分』『栄養』『薬』を忘れないでください」と松岡氏は念を押した。

Withコロナの被災者援助マニュアル

災害看護支援機構は活動の一環として、ポケットサイズの「Withコロナの被災者援助マニュアル」(90ページ)を刊行した。このマニュアルは、看護職のみならず一般ボランティアの方々が、避難所や仮設住宅・在宅避難者の支援に派遣された際、現場で必要な感染対策や支援のポイントがわかるように作成したものである。感染症対策ではなく、感染症が発生している時の災害対策である。全文がQ&A形式で記述され、イラストも多くわかりやすい。冊子版は送料は実費負担で事務局に問い合わせが必要。また、ホームページからPDFを無料ダウンロードもできる。

目次

概論 コロナ禍での災害支援の基礎知識

第1章 新型コロナウイルスの特徴と避難所での対策

第2章 災害発生時の社会の対応や仕組み

各論 コロナ禍での災害支援に向けて

第3章 感染予防の基礎的知識・技術

第4章 コロナ禍での避難所運営

第5章 コロナ禍での災害時救急医療

第6章 コロナ禍での仮設住宅・在宅被災者支援

第7章 家庭内における新型コロナ感染症

第8章 被災者、支援者のこころのケア

第9章 コロナ禍でのボランティア

NPO法人「災害看護支援機構」

連絡先

NPO法人 災害看護支援機構
事務局長 松岡千代