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ふれあいの輪

知っとく!Shittoku

水島俊彦氏

日本司法支援センター(法テラス)
本部法務室長(常勤弁護士)

水島俊彦

独居高齢者の財産管理
高齢化社会における
成年後見制度の重要性

独居高齢者を狙った犯罪が増えている。その代表的なものが本人の持つ財産の搾取だ。認知症などによる認知機能の低下した高齢者を狙って、悪徳業者が不要なものを売りつけたり、本人の了解を十分に得ないままに保有資産を処分しようとする。こんな時に転ばぬ先の杖となって本人の権利を守ってくれるのが「成年後見人」である。成年後見人とは何なのだろうか。どのような役割があって、どのような人が務めているのだろうか。成年後見制度利用促進専門家会議委員でもあり、自らも成年後見人の経験を持つ弁護士水島俊彦氏にお話を聞いた。

日本司法支援センター(法テラス)

日本司法支援センター(法テラス)

本人の資産や権利を守る成年後見人

 成年後見制度は、判断能力が不十分な成人(認知症高齢者や障害のある人々)に対して、その人の権利を守り、行使するために2000年4月1日より導入された支援制度である。認知症や知的障害、精神障害などにより、ひとりで契約したり、財産管理をすることが難しくなった場合に、状況に応じて、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職又は親族を「後見人・保佐人・補助人(以下「成年後見人」と表記する。)」として選任し、本人の財産を適切に管理しながら本人の生活を支援する役割がある。

 例えば、担当している独居高齢者が施設への料金を突然滞納するようになったとする。これに気づいたケアマネジャーが調べてみると、闇金融業者にだまされて本人の年金を吸い上げられていたケースがあった。このような出資法違反の業者による搾取だけではなく、ほかにも、同居の親族や近親者が本人の預金をほしいままに使っていることもある。本人の生活困窮の度合いによっては生活保護を速やかに受けなければならないこともあるが、認知症が進み本人の意思確認が難しい場合には、必要な保護申請さえ滞ることもある。

 このような方々が本来持っている権利を守り、行使するために、裁判所から認められた代理権、同意権、取消権などを活用し、本人らしい生活を支えていくのが成年後見人だ。

「高齢者や障害者が自分らしい生活を送るためには、支援者が本人の希望や意向をしっかりと理解し、それを支える体制を作る必要があります。成年後見人は財産管理ばかりが注目されがちですが、本人が本来持つ権利を守り、本人が権利を行使しやすくすることも重要な役割です」と、法テラス(常勤弁護士)の水島俊彦氏は説明する。

重要となる成年後見制度

 成年後見制度は、急速に進む高齢社会の中で整備された支援制度である。日本は世界有数の高齢社会であり、65歳以上の高齢者が全人口の約30%を占め、この割合はさらに増加していく見込みである。このような状況下、認知症や障害による判断能力の低下が懸念される人の増加が社会問題となっており、これらの人々の権利と生活を守るために、成年後見制度はすでに欠かせない存在となっている。

 とりわけ独居高齢者は、同居の家族がおらず、親族とも疎遠なことが多い。独居高齢者は、身体面・精神面の不安を抱えていることが多く、さらに判断能力が低下してくると、日常的な意思決定も一人で判断することが難しくなり、生活面での困難さが増していく。日々の生活費や病院の支払いなどの管理のほか、契約などの法律行為が難しくなり、悪徳業者等による詐欺に巻き込まれる危険性も高くなる。

 このため、成年後見制度は独居高齢者が住み慣れた地域で生活を継続していくに当たって、必要不可欠な支援の1つであると考えられる。成年後見人が家庭裁判所から選任されることで、本人の意思を尊重しながら、本人の財産管理や本人が持つ権利の行使が可能となり、結果として適切な支援が提供される。この制度の利用をきっかけに、高齢者は安心して生活できるようになり、また家族や社会の負担も軽減される。

成年後見人は誰が担うのか?
―成年後見制度の社会化の流れ―

 現在、1500万人を超える方が一定の認知機能や判断力の低下がみられるとされているが、成年後見制度が利用されている例は約25万件にとどまっている。「潜在的なニーズからすれば、25万件しか利用されていないといえるかもしれません」と、水島氏は指摘する。

 成年後見人は通常、本人、4親等内の親族又は市区町村長(首長)による申立てを受けて家庭裁判所が適任者を任命するが、近年は首長が申し立てる例が増加している。2023(令和5)年の統計では23.6パーセントであり、これがさらに進めば4人に1人は首長申立てを契機に成年後見制度が開始されることとなる。

 この傾向に加えて、制度開始当初は親族が成年後見人になるケースも多かったが、現在では成年後見人5人のうち4人については、親族以外の第三者が成年後見人(第三者後見人)になっている。第三者後見人は、選任数が高い順にいえば、司法書士、弁護士、社会福祉士である。

 このように、全国規模で成年後見制度の社会化が進んでいる。

成年後見制度の利用状況
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」より、厚生労働省成年後見制度利用促進室にて作成。

親族後見人と第三者後見人の選任割合の長期推移について
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」より、厚生労働省成年後見制度利用促進室にて作成。

成年後見人等と本人との関係別件数
成年後見制度利用促進体制整備研修
(2024.9)厚生労働省作成スライドより引用

成年後見人の事例

 成年後見人としての活動場面について、水島氏のこれまでの経験に基づき匿名化、一般化した事例を2つ紹介したい。

事例1:認知症のある高齢者の支援 

 これは、認知症が進行した80代の女性(Aさん)の事例である。Aさんは市営住宅に1人で住んでいたが、認知症が進行し生活やお金の管理が困難になっていた。加えて、親族にも障害があり、Aさんの支援が十分に行えない状況だった。そのようなことから、首長申立てにより成年後見人(保佐人)として関わることとなった。

 地域包括支援センターから相談を受けて、生活支援が始まった。具体的な支援内容としては、生活費の管理をはじめ、訪問介護、訪問看護、福祉用具、配食サービスの手配などである。

 最も重要だったのはAさんの希望や価値観を尊重することだった。例えば、Aさんが体調を崩して一時入院した際、Aさんの支援会議が開催され、次の生活の拠点として、特別養護老人ホームなどへの入所が提案された。支援者の中には、安全・安心なくらしを重視して施設を勧める者もいたが、Aさん自身は、「できる限り自宅で過ごしたい」「趣味を続けたい」という強い意向を示していた。成年後見人としてもAさんの意向を踏まえて発言した結果、リスクを軽減するための方策を十分に検討したうえで、すぐに施設に入所するのではなく、自宅での生活を継続することがチーム会議において確認された。

 さらに、Aさんの趣味であった俳句づくりも続けられた。Aさんは、認知症が進行しつつあるものの、長年続けてきた俳句の投稿を続けたいと考えており、そのためには審査料や俳句の先生に支払う謝金なども必要だった。成年後見人としては、Aさんとも話し合った上で、Aさんの決して多くはない預金額の中から資金を工面し、Aさんができる限り自分の好きなことを続けられるよう支援した。このように、生活支援だけでなく、本人の意思決定支援、自己実現にも焦点を当てた支援が行われたのである。

事例2:精神障害のある高齢者の支援

 2つめは精神障害のある70代の男性(Bさん)の事例である。本人は長年、精神科病院に入院していたが、退院を望み、退院後の生活を支援するために成年後見人として関わることとなった。当初は退院を希望する気持ちが薄かったが、同じ病棟の友人が退院する姿を見て、自分も外の世界に出てみたいという気持ちが芽生えてきたという。その後、Bさんは、さまざまなタイプの施設体験を踏まえ、比較的自由に外出可能で制約の少ない高齢者向け施設に入居することとなった。

 成年後見人(補助人)としては、預金を管理し、施設費の支払いのほか、本人と一緒に外に出て生活に必要な物品等を購入したり、日常生活上の小遣いを届けるなどしていた。特に重視したのは、Bさん自身の意欲を高めることであった。これまで閉鎖的な環境の中で過ごしていたBさんが、施設職員の支援を受けながらも自律して暮らしていく中で、「自分にとって何が大事なのか」を考える場面が増えたのだろう。少しずつ買いたいものややりたいことが出てきて、お気に入りのグッズを揃えるなど、Bさんらしい生活が少しずつ実現していった。

 成年後見人は、Bさんの希望を踏まえ、施設を定期訪問するたびに、現在の預金残高やその推移をBさんに報告していた。しかし、ある時、施設職員から「そういうの(報告)はやめてください」と言われることがあった。Bさんが自分の持ち金の額が分かると、気が大きくなって施設が保管している小口の現金を持ち出そうとして困るというのである。

 しかし、Bさんが自分で意思決定を行うためには、Bさん自身がお金に関する様々な情報を得ることが必要である。例えば、欲しいものを買うかどうかを決めるに当たって、今どれぐらいお金があるのか、買うとどれくらいお金が減るのかが分からないと、自分で判断することは難しい。Bさん自身の資産情報を適切に本人に提供することは意思決定支援の観点からも重要であることから、施設側には成年後見人の職務である財産管理の一環として理解を求めつつ、Bさんにも施設側の心配ごとを率直に伝え、双方の了承を得ることができた。

本人自身の「選好・価値観・意思決定」を支えることの大切さ

 成年後見制度を導入することで、独居高齢者はさまざまな生活上の不安から解放されるかもしれない。例えば、生活費の支払い、介護サービスや医療の手配、その他本人の生活の基盤を支える事業者・施設等との契約など、日常的に必要な手続きや金銭管理を成年後見人は本人の法定代理人として行うことができるため、本人がひとりで判断することが難しくても、成年後見人の助力を得ながら安心して地域で暮らすことができる。

 水島氏は長年にわたり司法、福祉の現場で支援に携わり、数多くのケースを見て「本人の心からの希望、選好や価値観を踏まえた『意思決定支援』とは何か、そしてそれをどのように支援者がチームとなって実践していくかという問題は、これからの司法・福祉関係者にとって極めて大切なテーマです」と語る。

 高齢者や障害者が自分らしい生活を送るためには、支援者が本人の希望や選好、価値観をしっかりと理解し、本人自身の意思決定を支える体制を作る必要がある。しかし、現実には、本人に良かれと思って、周囲の価値観を本人に押し付けた支援が行われている現場も多く、支援の質にばらつきが生じている。そのため、支援者と本人が1つのチームとなって、本人の「チョイス&コントロール」の保障、すなわち、社会全体で本人が支援を受けながら自ら意思決定を行っていく「支援付き意思決定」の機会を確保し、かつ、本人自身が主導権をもって人生を歩んでいることが実感できる環境を整備することが、国連障害者権利条約、さらには2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」においても求められている。

 成年後見人がチームの一員として本人の生活の質を向上させるためには、柔軟な姿勢が求められる。金銭管理や契約の場面だけでなく、本人がどのような人生を送りたいのかを本人とともに考え、それを実現するためにチームの協力を得ながら必要な支援を提供することが重要だ。

 日本の高齢化が急速に進む中、本人の生活基盤を支える介護、福祉サービスがますます重要になるとともに、より質の高い支援が求められている。他方で、これまでのような『支援する、される』という一方通行の関係のままでは、「支援者」が減少していくこれからの地域社会を支え切ることは難しい。

「これからの時代、認知症や障害のある人々を含むすべての人が地域でともに自分らしく生きがいをもって生きるためには、地域共生社会の理念に基づき、『(障害のある人もそうでない人も)地域の中で一緒に暮らすのは当たり前だよね。困ったときはお互い様だよ』と自然に支え合い、それぞれの役割を持ちながら地域をともに創っていける関係性をいかに築いていけるかがカギとなるのではないでしょうか」と水島氏は訴える。

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