研究・事業助成採用事例Examples of research and business grants
国立精神・神経医療研究センター病院(NCNP)
医療連携福祉相談部/看護部
地域連携医療福祉相談室 入退院支援係長(看護師長)
花井 亜紀子氏
令和5年度(第34回)/『神経筋疾患患者の胃瘻造設における協働意思決定と後悔に関する多施設共同研究』
神経難病看護の意思決定支援に関しては文献が少ないので、自らデータ収集し、ケアの在り方を研究する必要があった。
花井さんは、国立精神・神経医療研究センター病院で入退院支援を担当(看護師長)。現職に就いて10余年、「脳の病」(神経疾患)と「こころの病」(精神疾患)を専門とするナショナルセンターでの苛酷な日常から、こうした研究テーマが自然につむぎ出されたという。緩和ケアを志し看護師になったという花井さん、「緩和ケア認定看護師」「難病看護師」の有資格者でもある。
2度の応募、助成採択も2度目
当院は研究施設の病院なので、研究・助成応募の案件がいろいろと舞い込んできます。フランスベッドの場合は「在宅ケアの推進」がテーマですし、私が在籍する入退院支援室はまさに在宅と病院の架け橋の役割を担っている。神経難病の患者さんのメインの生活の場は在宅です。フランスベッドさんとは、日ごろから介護用ベッドなどの福祉用具や吸引機などを介してお世話になっていたこともあり、上司に勧められ応募しました。実は、平成30年度の事業助成もいただいており、今回が2度目になります。初回のテーマは『神経筋疾患専門病院の看護師による自宅訪問』。退院後の患者さんを訪問して、その後の療養相談を継続して行うという事業提案でした。
胃瘻、人工呼吸器で悩む患者さんの意思決定を支援する
「神経筋疾患患者の胃瘻造設における協働意思決定と後悔に関する多施設共同研究」──研究テーマを見ただけでは、皆さんきっと何のことやらわからないと思います(笑)。私は病院の中の入退院支援室という部署に看護職の管理者として在籍しています。患者さんは主に神経筋疾患の方と小児で、ご自宅に戻るにあたっての生活調整をしたり、地域の方々と連携して退院した後の生活を支援する仕事です。進行性の難病の人が多く、最初はそこまで悪くなくても、徐々に病気が進行していく過程でまた外来に来たり、入退院を繰り返す。この中で生活も再編しなければなりません。神経筋疾患の患者さんは症状の進行により、食事ができなくなったり呼吸がしにくくなります。その時の代替療法として「胃瘻」を検討したり、呼吸が難しい場合は「人工呼吸器」装着の選択となる。その時に患者さん・家族はかなり悩まれます。どうしたらよいだろうかと…。そこに、我々も最善を一緒に考え意思決定を支援するのです。
同じ胃瘻造設でも、神経難病と他の疾患では意味合い異なることがある
胃瘻を作るときは本人の意思を尊重します。食事ができなくなった場合の胃瘻造設について、患者さんは「胃瘻は延命措置だ、そんなに長生きしたくない」と悩みます。でも、栄養を入れることで家族とコミュニケーションが取れたり、社会活動ができたりするので、我々としては延命措置というより栄養療法ととらえています。胃瘻造設を延命処置ととらえる病気や状態がありますが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経筋疾患患者さんの胃瘻では、意味合いが少し異なります。ALSの場合胃瘻を作ったとしても、呼吸障害が進行してしまえば、その対処も考えないと延命は望めなくなってしまうからです。
10施設99名のデータを集計・分析
呼吸が難しくなり人工呼吸器を装着すると、現代の日本では外すことはできません。さらに進行すると身体は自由に動けなくなり、人とのコミュニケーションが取りづらくなりますので、長く生きていくことに悩まれます。そういったからだで生きていくことに価値はあるのかと…。こういった大事な、生命に直結する医療的ケアの意思決定に関しては、我々看護職も支援者も悩まざるを得ません。その時の判断材料となる研究がしたいと考えました。ただ、神経筋疾患自体が希少疾患ですし、ウチの病院だけでやろうとすると対象者が非常に少ない。また、胃瘻を作った後、後悔しているか否かといった自分の意思を伝えられる人となると限られてしまう。そこで他施設との共同研究を考えました。神経筋疾患を看ている全国の病院に声掛けし、当院を含む10施設99名のデータを集計・分析することにしました。
胃瘻造設時の葛藤DCSと造設後の後悔DRSの相関
胃瘻造設後のQOL
胃瘻造設時の意思決定の葛藤と造設後の後悔は相関関係にある
調査期間は令和4年7月から6年3月まで、いろんな側面からデータを取りました。その成果は一概には言えませんが、分かったことは大きく二つあります。一つは、医療的ケアについて、「最初に葛藤値が高かった人ほど後悔する率も高い」ということ。初めて胃瘻を作るときは葛藤も後悔も高いもの。あたり前のことですが、患者さんの精神的な不安や恐怖などをわれわれ医療者がもっとくみ取ったうえで、意思決定を一緒に考えていかねばなりません。もう一つ、介護保険サービスの利用について。神経筋疾患の人は介護保険が優先される疾患があり。介護保険サービスを使っていろいろ生活を組み立てていきます。しかし、介護保険は医療的ケアについてはあまりサポートできないので、結果として家族の介護負担が増していく。家族に負担をかけてしまうということで本人の精神的QOLも低くなります。家族の介護負担を減らせるような社会サービスをもっとつくらないといけないと思いました。
研究が専門でない人でも気軽にアクセスできる制度
フランスベッド・ホームケア財団の研究・事業助成は、毎年発表がある度にチェックしています。どんな人が、テーマは何か。深々とした研究からボランティア活動まで、採択されたテーマのすそ野の広さに面白さを感じます。特に、医療分野の専門研究者ではない人や、臨床における「これってどうしたらもっとよくなるか」という程度の改善提案まで、研究者以外でも気軽にアクセスしやすい助成制度だと思います。私としては、今後も機会があれば挑戦したいと思っています。神経難病の看護は文献があまりなく、データを収集・分析して自分で研究を進めていく必要があります。例えば「多系統萎縮症」という病気があります。非常に難しい病気で、家族も当人も悩むし、文献もほとんどありません。支援、看護、ケアの在り方を研究していきたいなと考えています。
連絡先
〒187-8551
東京都小平市小川東町4-1-1
国立精神・神経医療研究センター病院
TEL:042-341-2711 (内線8135)