研究・事業助成採用事例Examples of research and business grants
特定非営利活動法人
全国盲老人福祉施設連絡協議会 事務局長
常盤 勝範氏
・ベトナム看護大学生との国際交流
・日本語学習サマーキャンプの実施
深刻化する少子高齢化と
人材不足の危機
日本の少子高齢化は、喫緊の課題である。特に福祉・介護業界では、高齢化の進展にともない、支援や介護を必要とする人が増えている一方で、担い手となる人材が不足しており、深刻な人手不足に陥っている。この状況は、日本の社会保障制度の持続可能性を危うくし、国民生活の質の低下にもつながる危険性がある。こうした状況下、政府や業界は外国人介護人材の受け入れを進めており、とりわけベトナムは、日本語学習意欲が高く、勤勉で質の高い人材が多く、介護現場での活躍が期待されている(注1)。しかし、外国人介護人材の受け入れには、言語の壁、文化の違い、資格取得の困難さ、待遇面での不安、社会からの偏見など、多くの課題が残されている。
注意1:施設として介護保険制度適用の有無によって外国人労働者雇用の条件が変わります。
福祉連絡協議会の
設立背景と活動概要
全国盲老人福祉施設連絡協議会(以下、福祉連絡協議会と略)は、視覚障害を持つ高齢者の福祉向上を目的とした団体である。盲老人ホームでは、通常の介護以上に高度な専門性と献身的なケアが求められるが、このような特殊なニーズに応えられる人材の育成は容易ではない。
福祉連絡協議会の設立は、1961(昭和36)年に奈良県の壷阪寺境内に開設された日本初の盲老人ホームに遡る。このホームは、視覚障害を持つ高齢者の福祉向上を目指し、その後、各地の盲老人ホームが連携し、情報共有と職員育成のために福祉連絡協議会を設立し、全国の盲老人ホームをつなぐ重要なネットワークとして機能してきた。
福祉連絡協議会は、職員の研修と教育に注力している。視覚障害を持つ高齢者に対するケアは、その特殊性から高度な専門知識が求められるため、福祉連絡協議会は各施設での実務に基づいた研修プログラムを提供し、職員のスキル向上を図っている。また、研修会やセミナーの開催を通じて、現場の職員が最新の介護技術や知識を共有し合う場を設けている。
さらに、国内の枠を超えた国際的な人材交流も展開している。特に、ベトナムとの協力を通じた看護大学生の日本語学習サマーキャンプの実践は、未来を見据えた戦略的な取り組みとして注目されている。
ベトナム看護大学生サマーキャンプ
ベトナムの看護大学生サマーキャンプは、2019年に初めて開催された。このプログラムは、日本文化と介護現場を理解しながら日本語を学ぶことを目的としている。参加者は、ベトナム国立ナムディン看護大学から選抜された優秀な学生であり、彼らは将来のキャリアに日本での介護職を視野に入れているそうだ。
サマーキャンプは日本語学習を中心とし、このほか日本の介護現場における体験を通じて、視覚障害を持つ高齢者に対するケアの実際を学ぶ機会も提供される。福祉連絡協議会に加盟する盲老人ホームでは、学生たちが介護現場を見学することで、その特殊なケアの技術と知識も学ぶことができる。
このサマーキャンプは、単なる研修プログラムにとどまらず、彼らは異国の文化に触れ視野を広げることができる。また、サマーキャンプを経験した学生たちは、日本での就労に対する意欲を高め、将来的に日本の介護現場で活躍することを目指している。
日本語教室の重要性とその影響
ベトナムの看護大学生が日本で就労するためには、言語の壁を克服することが不可欠である。サマーキャンプでは日本語習得をメインにすることで、学生たちが日本語を効率的に習得できる環境となっている。この日本語教室は、基礎的な日常会話から、介護現場で必要とされる専門用語、さらにはビジネスシーンでの敬語やマナーに至るまで、幅広い内容が網羅されている。
特に、介護現場においては、入居者やその家族とのコミュニケーションが重要であり、正確な言葉遣いや適切な態度が求められる。日本語教室では、学生たちがこれらのスキルを身につけるために、実際の現場を想定したロールプレイやシミュレーションが行われる。また、日本文化に対する理解を深めるための講義も提供されており、学生たちは言語学習と同時に日本の社会的な価値観や慣習についても学ぶことができる。
日本語教室は、単なる言語学習の場にとどまらず、学生たちが日本社会に適応し、将来的に成功するための基盤を築く重要な役割を果たしている。
サマーキャンプでは、学生たちが伝統的な行事、さらには地域の祭りやイベントに参加する機会も設けられている。これにより、彼らは日本の多様な文化的背景や地域性を理解し、日本社会における生活の一端を実感することができる。このような体験は、学生たちが将来、日本で働く際に、異文化に対する柔軟な対応力や適応力を発揮するための大きな助けとなるだろう。
日本と同じ課題を抱えるベトナム
ベトナム人参加学生は、日本人の若者と同様にデジタル機器への親和性が高く、情報収集能力に優れている。しかし近年、日本への留学や就職を検討する際には、幾つかの課題も見えてきた。
ベトナムでも少子化が進展しており、親の意見が子の進路選択に大きな影響力を持つ傾向にある。特に、介護や看護という職業に対する親の不安や、コロナ禍の影響による医療現場への懸念が、学生たちの日本への進出を躊躇させる要因となっている。また、ベトナムの若者も、日本人の若者と同様に、個人主義的な傾向が強まり、プライバシーを重視するようになっている。
さらに、日本社会への適応も大きな課題である。日本の社会のコミュニケーションスタイルや価値観とのギャップに戸惑い、適応に苦労する学生もいると考えられる。
ベトナムやインドネシア、フィリピンなどの国々が急速に発展している現在、日本の先進国という魅力だけでは十分ではなくなってきた。今後は、就労学生の具体的な成功事例を示し、魅力的な未来像を提示することが不可欠であろう。
サマーキャンプの
未来展望と拡大計画
サマーキャンプは、その成功と意義が認識される中で、今後さらに拡大することが期待されている。福祉連絡協議会は、ベトナム以外の国々からも看護学生を受け入れ、多国籍な介護人材の育成を推進する方針である。特に、日本語教育プログラムのさらなる充実を図り、より多くの学生が日本語を習得し、日本での就労を目指せる環境を整えることを目標としている。
また、サマーキャンプの規模拡大にともない、受け入れ先の盲老人ホームや地域社会との連携も強化される予定である。これにより、学生たちはより多くの実践的な経験を積むことができ、さらに高度な介護スキルを身につけることが可能となる。
福祉連絡協議会はサマーキャンプを通じて、日本とベトナム、さらにはその他の国々との間の新たな架け橋になりたいと希望している。この国際的な人材交流は、単なる一時的な取り組みにとどまらず、長期的な視点から日本の福祉・介護分野における人材不足を解消し、両国の福祉・介護分野の発展に寄与したいと考えている。
事業方法や費用負担など
(2019年の例)
本事業について、事業対象となるベトナム国立ナムディン看護大学当局と本会との間で、数度の協議を経て協定書を締結し、次の通り本プログラムを実施した。
① 実施時期については、学期の終了後から新学期を迎えるまでの間が大学としての通常の授業に支
障がなく最適とのことで、7月の1か月間において実施すること。
② 参加対象学生(新3年生、新4年生の中より)の選考については、大学側が成績、取り組む姿勢等
を勘案して行うこと。
③ 参加人数は学生25名、引率教員4名が来日することとする。
④ 実施日数については、概ね2週間とし、日本語教室の一度に受け入れが可能な人数からすると、約
半数により2グループで実施することとする。
⑤ 本事業の根幹である日本語教室の実施については技能実習等で既に日本語教育を手掛けるエージ
ェントに業務委託して行い、言語の学習を通じて日本の社会や文化等にも触れながら興味や関心を持
つような内容を含めながら進めることとする。
⑥ 期間中、参加学生の価値観や行動様式等の把握、理解に努めることとする。
⑦ 終了後、参加の各学生には今回の事業に関する感想、参加後の日本の印象、帰国後の日本語学習
等について調査を実施し、整理した上で特徴的な事項があれば今後に反映させることとする。
⑧ ベトナム側は個人のパスポート取得費用及びベトナム国内での移動費用を負担。
⑨ それ以外の費用、VISA取得費用から交通費、滞在費、日本語教室実施費用等は日本側が負担す
る。
連絡先
〒635-0102
奈良県高市郡高取町大字壷阪3番地
特定非営利活動法人 全国盲老人福祉施設連絡協議会
Tel:0744-52-2088