介護最前線Front line of Nursing
公益社団法人国際厚生事業団
専務理事 片岡 佳和氏
EPA一択から「技能実習」「特定技能」へ
広がる外国人介護人材の受入れ門戸
「特定技能」や「技能実習」の在留資格を持ち、介護施設などで働く外国人介護人材──もはや彼らの存在を抜きに日本の介護事業は存立しえないとさえいわれる。外国人介護人材の受入れに先導的役割を果たしてきたのが経済連携協定(EPA)だ。国際厚生事業団(JICWELS)は、日本唯一の外国人介護人材受入れ調整機関である。2008年から今日まで累計約7,700人もの外国人材を受入れてきた。支援の現状はいかに、また高齢者数がピークを迎える2040年に向けた支援対策など、片岡佳和専務理事に聞いた。
公益社団法人国際厚生事業団
外国人介護人材の受入れは
4ルートに拡大
国際厚生事業団という法人名から、この公益社団の事業内容をイメージできる人は少ないだろう。外国人介護人材の支援窓口だとわかる人がいたなら、おそらくはEPA(経済連携協定)に関心をもつ介護施設運営者か、資格取得を目指し来日した外国人本人くらいかもしれない。
国際厚生事業団は1983年、厚生省(現厚生労働省)の認可を受けて設立された。その目的は、アジア地域を中心とした開発途上国の人材育成で、研修事業をメインに調査やプロジェクト、国際会議の実施など、保健医療・福祉分野の政府開発援助事業(ODA)の支援にあった。
同事業団が介護行政の表舞台に登場したのは、2008年、EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者の日本唯一の受入れ調整機関となってからだ。受入れを円滑に実施・運営するため、受入れ希望機関の募集、要件確認、求職者情報の翻訳・提供、マッチングなどを実施。候補者の就労後も、施設に対する管理支援や情報提供、資格取得者向け研修などの支援業務を行っている。
お話を伺う前に、まずは下部の「外国人介護人材受入れの仕組み」をご覧いただきたい。いうまでもないが、外国人材の受入れ・雇用にはおのずと制約がある。外国人介護人材を受入れる主なルートは、「EPA」「在留資格/介護」「技能実習」「特定技能」の4ルートとなっている。
外国人介護人材の受入れ/
4つのルート
①経済連携協定(通称EPA)
EPAは2国間の経済連携強化を目的とした特例的な受入れで、介護施設で就労・研修しながら、介護福祉士資格の取得を目指す制度。対象国はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国。
②在留資格「介護」
国家資格である「介護福祉士」の資格を有すること。在留期間の延長により、日本での永続的就労も可。
③技能実習
ほかのルートとは異なり、あくまでも日本で培われた技術や知識を相手国へ技術移転すること、そして当該国の経済発展を担う人づくりに寄与することが目的。実習期間は最長5年。5年が終了すると基本的には帰国となるが、条件を満たせば「特定技能」への移行も可能。なお、同制度は抜本的に見直され、人手不足分野における人材の育成・確保を目的とする育成就労制度が創設される(令和6年6月21日から3年以内)。
④「特定技能」
就労目的で一定の専門性や技能を有し、即戦力となる外国人を受入れるもの。各産業での人材不足に対応するため創設された最も新しい制度。全体で12分野あり、その一つに「介護」がある。「技能実習」から移行する仕組みも設けられている。就労期間は最長5年。介護職員として長く日本で就労するためには、介護福祉士資格を取得することが必要。
インドネシアなど3国から
累計7,712人の受入れ実績
中でも中心的役割を果たしてきたのがEPAだ。2008年度に始まり今年で17年目。インドネシア、フィリピン、ベトナムから、母国の看護系大学卒や日本語能力など一定の要件を満たす候補者を受入れてきた。その仕組みはこうだ。
日本で看護師や介護福祉士の国家資格取得を目指す候補者は、母国と日本で1年間の日本語研修を受け、N3レベル(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)で介護施設に就労・研修を開始する。原則として3年以上の実務経験を経て、4年目に介護福祉士国家試験を受験。資格取得後はEPA介護福祉士として引き続き日本で介護施設に従事することができるのだ。
2024年1月1日現在、EPAが受入れた看護師・介護福祉士候補者の累計人数は9,409人を数える。制度開始から17年、EPAが受入れ看護師・介護福祉士資格を取得した外国人は、現在、現場のリーダーあるいは外国人教育係などに成長し、病院や介護施設に欠かせない戦力となって日本の高齢者福祉を支えている。
施設に人気のベトナムに
欧米諸国もアプローチ
片岡佳和専務理事が、現在に至る外国人受入れ環境の変化をおおまかに説明してくれた。
国際厚生事業団がEPAを通じて外国人介護人材の日本流入に果たしてきた役割は非常に大きい。インドネシアは2008年度から、フィリピンは2009年度から。ベトナムがいちばん後発で2014年度から。その内訳は、インドネシア人(看護師候補者754人、介護福祉士候補者3,196人)、フィリピン人(同682人、同2,932人)、ベトナム人(同261人、同1,584人)となっている。もちろん、国により経済環境や医療制度も異なり、人材を送り出す社会環境も微妙に異なる。例えばフィリピン・インドネシアに関しては看護学校卒業者、もしくはそれぞれの国のケアギバー認定を取得した人が対象なのに対して、ベトナムは看護学校を出た人のみだ。
「採用のしやすさの順ではフィリピン、インドネシア、ベトナムの順になりますか、施設側の目線でいうならフィリピンは以前より比較的取りやすい状況が生まれています。インドネシアの直近の状況は求人倍率1.5倍くらい。ベトナムは2倍以上です。べトナムに関しては施設の人気は高く、特にコロナ以降はドイツや韓国など、人材確保のために魅力的なアプローチをかける国も出てきて、以前より採用しにくくなりました。いずれにせよ、かつてのような日本一択の環境ではなく、ただ制度があるというだけでは来てくれなくなっています」
ベトナムについては、これまで制度周知が不十分だった中部・南部の看護大学を対象に説明会を行うほか、日本の介護現場の魅力を紹介した動画をSNSで流すなど、EPAをよく知ってもらうための活動に力を入れているという。
利用しやすい「特定技能」
今後の外国人受入れの柱に
国際厚生事業団が今、EPAとともに力を入れているのが「特定技能」による受入れである。特定技能制度は深刻化する人手不足に対応するため、即戦力となる外国人を受入れるために2019年に創設された制度で、国内の介護事業者からも高い関心を集めている。
出入国管理庁によると、昨年12月末現在で「特定技能1号」として在留している外国人は20万8,425人。そのうち2万8,400人が介護分野で就労している。この数字は飲食料品製造業、素形材・産業機械・電機・電子関連製造業分野に次いで3番目に多い数字となっており、間口が広がった外国人介護人材の受入れ場面において、今後は特定技能が柱となって進んでいくと考えられる。ちなみに介護分野の特定技能協議会の事務局を務めているのも国際厚生事業団だ。
「特定技能は、今、非常に利用しやすくなりました。外国人は自分たちで特定技能を使って日本に来られるようになったし、病院にしても技能実習との併用で確実に採用できる道ができました。当事業団は今後、EPAに限らず、技能実習や特定技能などさまざまな制度のもとに来日した外国人介護人材を対象にした支援事業を展開していきます。具体的には、日本に滞在している外国人介護人材およびその受入れ施設を対象とした相談窓口を設置し、在留資格や生活日本語学習などに関する相談を受け付けるなどの支援を行っていきます。またEPAもここへきてかなり採用がしやすくなり、国家試験合格率も上がっているので、継続的に外国人を受入れたい事業者は是非ご検討いただきたいと思います」
高齢者数がほぼピークを迎える2040年に向け、厚労省はこのほど「介護福祉士」の国家試験制度を大幅に見直す方針を固めた。試験問題を3分割し、翌年度に再受験する場合は合格基準に満たなかった分野のみ受ければ済むようにするという。専門職を増やす狙いだ。遅まきながら、外国人介護人材の受入れ環境は確実に好転しつつあるようだ。
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