介護最前線Front line of Nursing
株式会社太陽メディケアサービス
専務取締役 小林 和徳氏
介護職種の切り分けと
2時間単位のパート採用で、
人手不足は解消できる
新潟県長岡市で4棟の介護施設(介護付き有料老人ホーム3、サ高住1)を運営する㈱太陽メディケアサービスの、大胆かつシンプルな人手不足解消策が注目を集めている。同社は昨年9月、「令和6年度介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰・厚生労働大臣表彰」において、準優勝に相当する優良賞を受賞。決め手となったのが「サポーター制度」だ。事業規模や資本力に関係なく、誰もが踏襲できる環境改善・生産性向上に向けた“特効薬”を取材した。
「介護助手」では応募ゼロ。「サポーター」に変えたら100人来た
まずは「サポーター制度」の説明から入ろう。正式な介護用語は「介護助手」でサポーターは俗称にすぎないが、この呼称変更が大きなドラマを生んだ。
㈱太陽メディケアサービス(新潟県長岡市)は、2023年4月、介護付き有料老人ホーム・メッツ長岡の新規開業求人に際して、サポーター制度を導入した。「介護労働を、身体介護を中心とした資格や専門性を要する仕事と、生活援助やコミュニケーションを中心とした周辺業務に切り分け、後者をパート従業員に委ねることで職員の労働時間短縮や生産性向上を図る」──これがサポーター制度だ。この考え方は以前からあったが、ここまで大胆に実施した事業者は少ない。制度設計を担当した小林和徳専務取締役がその意図を語る。
「<介護助手>で募集したところ、なんと反応はゼロでした。介護助手ではダメなんですよ。看護や介護の仕事をするわけでもないのに、資格や重労働のイメージがついてまわるから。看護師・介護士募集でも同じことが言えます」
<サポーター>に変えて募集したところ、自社就職セミナー(計4回開催)にいきなり100人を超える人が集まった。ネーミングを変えただけだがその威力は絶大だ。
「どんな業界にも“誰でもできる仕事”は存在すると思います。それを経験のない人たち、つまりは介護をやらされると思って応募してこない人たちにしてもらうにはどうしたらいいか。介護という仕事は忍耐を要求されるマラソンのようなもの。そこに瞬発力のあるスプリンターが入ってきたようなものです。彼らのおかげで介護現場に時間の余裕ができる。その時間に介護士本来の業務であるコール対応をしたり、排泄介助の回数を増やしたり、記録や研修にあてたりできるんです」
サポーター
2時間だから働ける
モチベーションも上がる
労働時間を基本2時間とし、サポーターのライフステージに合わせて好きな日に働けるようにした──この判断も良かった。介護現場にどっぷりつかっているとなかなかできない決断だ。小林専務は続ける。
「雇う側は少しでも長く働いてもらおう、お給料もそれなりにと考えがち。でも働く側は長い時間拘束されたくないんです。2時間だけだからいい。サポーターの希望に寄り添ってあげることで、モチベーションの高い人たちをたくさん採用することができました」
5月現在、同社の全職員約200人のうちサポーター登録者は計70人を数える。近年は飲食業など、自分の空いている時間に不定期に働くスキマバイトが流行りつつあるが、サポーター制度はそれとは一線を画する。きちんと面接をして雇用契約を結ぶ。ひとりひとりの勤務時間は短くても、彼らが総体としてどれだけ職員の労働時間短縮や本来の介護業務の生産性向上に貢献しているか、容易に想像できるというものだ。
「介護現場は忙しい、人手が足りないというけれど、四六時中というわけではありません。食事と入浴が集中する午前のピークタイムをサポーターがケアしてくれるだけで、現場の生産性は大きく向上します。逆の言い方をすれば、午後などは必ずしもフルに人がいなくてもよいのだから」
コミュニケーションサポーター
主婦、リタイア組、大学生
介護施設のピークタイムに応援に入れる
では、こうした呼びかけに応じるサポーターとはどういう人たちなのか。大きく次の3種類に分かれるという。
まずは、かつてはエッセンシャルワーカーとして、医療・介護の現場でバリバリ働いていたが、結婚・出産を経て、今はまだ子育て中で長時間働けないママさん世代。この中には、資格があるのに今は働いていない、いわゆる潜在看護師も含まれる。
次に多いのが、リタイアしたシニア世代。60代~70代中心で、体力的にもフルタイムでは働けない。孫が保育園に行っている時間はフリーで時間を持て余しており、午前中にたくさんの人手がほしい介護施設とマッチングする。最高齢は75歳という。
あとは地域の学生だ。長岡市内には大学が3つある。朝食の配膳を手伝ってもらったとしても、一コマ目の授業に間に合う。それこそスキマバイト感覚だ。月に2万~3万の収入だが彼らには非常に貴重という。
「近くにある長岡技術科学大学の男子学生から聞いた話では、就職活動の際、介護施設で働いた社会経験があることが非常に好印象につながるとか。コンビニで働くのも悪くないけど、社会貢献にもなるしまさに一石二鳥です。アルバイト先が減ったコロナ以降、これまで以上に人気があります」
サポーターの仕事は4種類
どの介護現場にも共通
サポーター制度を遺憾なく機能させるためには、介護現場の業務をその内容や所要時間、求められるスキルなどから細かく切り分けねばならない。メッツ長岡開業にあたり、業務の棚卸を行いスタッフと業務改善の話し合いを何度も重ねた。その結果、サポーター職種(※図版参照)を、イートサポ(食事配膳)、バスサポ(入浴の介助)、リビサポ(居室清掃)、コミサポ(レクリエーション担当)の4種に絞り込んだ。
サポーターの種類・登録者(4施設計)
種類 | 勤務時間 | 人数 | 内容 |
---|---|---|---|
イートサポ | 朝・夕2時間 | 22名 | 職員数が少ない朝夕食時に配膳・食器の片付けをする |
バスサポ | 午前中の2時間 | 13名 | 入浴介助を手伝う |
リビサポ | 10:00~14:00の間で2時間 | 7名 | サロン活動に参加している間、居室を掃除する |
コミサポ | 9:30~11:30、13:30~15:30 | 30名 | 体操・ゲーム・楽器演奏など、レクリエーションの進行役 |
これらの業務は資格に関係なくできるし、介護の専門知識や経験も必要ない。それでいて実は介護労働の中で大きなウェイトを占め、過度な残業の原因となる。切り分け方はかなりシンプルで汎用性があり、ほかの施設でもできるという。
「排泄とか食事介助とか、こうした身体介護は経験のない素人にはできませんが、配膳や部屋の掃除などは誰にもできます。サポーターにまかせることで正規職員の残業時間が短縮できるだけでなく、これらの周辺業務から開放された時間を介護士本来の仕事に使えるので、サービスの質を高めることにつながります」
サポーター制度の時短効果は数字が証明している。同社の総残業時間は1日100時間未満で1人あたり1時間を切る。業界平均の5分の1程度とか。職員の働きすぎやストレスの軽減、ひいては離職防止にも大きく貢献している。
人件費が大幅削減
儲かる介護事業も夢じゃない
サポーター制度は施設経営にどのような効果をもたらしたのか、いくつか数字を挙げて検証してみたい。
人件費の圧縮、47%に
有料老人ホームの人件費率は一般に売上の6割から7割で良しとされるが、太陽メディケアサービスの場合45~47%くらいで収まるという。一番の要因はもちろんサポーター制度の導入にある。
「サポーターが必要なところでうまく入ってくれることが、人件費の削減に大きく寄与しています。常勤の人を1人雇うよりもずっと高い効果が期待できます。また、サポーターは施設の人員配置基準にカウント(特定施設は、入居者1人に対して介護職員3人)できるので、人数が多くて困ることはありません」
入居率96%、高利益率化
今日、介護施設運営は赤字経営が常識となりつつあるが、誤解を恐れずにいえばメッツ太陽の場合、“儲かる介護施設”と言えなくもない。経営のバロメーターとなる施設入居率は、ここ数年96%を維持し高利益を確保できている。
1人の給料で12人雇える
サポーター制度のネックは、非正規職員の大量雇用に伴い増大する労務管理であろう。
「ジョブローテーションは当然クロスワードパズルのようになりますよ。でも、ボリュームゾーンは最初から決まっています。シフトに関していえば、その時間帯が埋まるか否かだけの問題。やってみて言えるのは、登録者が多ければ多いほどプラスに働くこと。1人あたり月に17回くらい入れば、そのシフトはだいたい埋まります」
登録者は現状70人になるが、過不足なくうまい具合に回転しているという。70人いても賃金は月2万~3万円程度。介護職員1人分の給料30万円で、12人のサポーター雇える勘定だ。
まさにいいことずくめのサポーター制度。取材を終えた小林専務は、最後にこんなメッセージを寄せてくれた。
「人手不足に苦しむ介護業界では、対策としてDX、ICT、外国人の雇用などがいわれていますが、どれもそう簡単にできないし投資にはお金がかかります。これに対してサポーター制度は誰でもできるので、ぜひトライしてほしいと思います」
連絡先
株式会社太陽メディケアサービス事業本部
〒940-0082
長岡市千歳3-2-35
TEL:0258-86-8966(代)
URL:https://taiyo-medicareservice.co.jp/