介護最前線Front line of Nursing
セコム株式会社
セキュリケア事業推進室 課長
河村 雄一郎氏
防犯・見守り・健康
24時間365日の安全と安心
ホームセキュリティ最前線
安全で安心な暮らし。高齢者になるとこの当たり前のことが難しくなる。急に具合が悪くなったり、突然の訪問者に怯えたり、うっかり火の始末や施錠を忘れたり……。独居になると会話さえなくなってしまい、離れて暮らしている家族も心配になる。このような不安を解消するサービスに「ホームセキュリティ」がある。ホームセキュリティを日本で初めて提供し、市場のけん引役を果たしてきたセコム株式会社を訪問し、どのようなサービスがあるのか、利用事例や今後の展開などをおうかがいした。
セコム株式会社 セキュリケア事業推進室
「ホームセキュリティ」とは?防犯から見守りへ
セコムは、日本におけるホームセキュリティを切り開いた企業であり、防犯や見守り、さらには健康相談などを含むご家庭内の困りごとを解決している。
同社はもともと「巡回・常駐警備」の形で警備員を建物内外に配置し、物理的な人の力で安全を確保していた。しかし、巡回・常駐警備は人員やコスト面での制約があったことから、それを補う形で「機械警備」を開始した。建物内に各種センサーを設置し、不審者の侵入異常などを感知することで、セコム・コントロールセンター(中央監視センター)に即時通報しセコムが駆けつけるシステムである。
「この技術を家庭向けに応用し提供したのが、『セコム・ホームセキュリティ』です。家庭向けのセキュリティサービスを開始したのは1981年のことで、日本初のサービスでした」と、セコム株式会社 セキュリケア事業推進室 課長 河村雄一郎氏は紹介する。
同社のホームセキュリティは当初防犯に焦点を当てていたが、社会のニーズにともなってサービス範囲を拡大し、センサーは窓や扉の開閉だけでなく、居住する人の室内での動きや生活リズムの異常を感知できるようになっていった。「高齢者世帯や独り暮らしの家庭に向けた見守り機能としても活用されるようになっています。『セコム・ホームセキュリティ』は暮らし全体を守る重要な存在となっています」(河村氏)。
提供されるサービス内容
「セコム・ホームセキュリティ」は、防犯だけでなく見守りや健康相談といった幅広い機能を備え、利用者に多層的な安心を提供している。以下にその主なサービス内容を紹介したい。
●救急通報ボタン「マイドクター」(室内のみ)
急病やケガなどに備える救急通報ボタン「マイドクター」を提供している。常時携帯できるペンダント型でぶら下げておくこともでき、利用者が「マイドクター」を握るだけでセコムの緊急対処員が自宅に駆けつける。また、異常が確認されると、コントロールセンターから119番通報や緊急連絡先への連絡がスムーズに行われ、独り暮らしの高齢者にとって重要なライフラインとなっている。
●各種センサーで防犯と見守りの融合
各種センサーが用いられており、火災センサーは火事をいち早く感知しコントロールセンターに通報する。防犯センサーのマグネットセンサーは窓や扉の開閉を感知し、不審者の侵入を防ぐ。また、人感センサーは室内の動きを感知し、侵入者だけでなく見守りにも対応する。ある一定時間センサーの感知がなかった時は、生活リズムの異常と判断して、コントロールセンターへ通報される。これを同社では「安否みまもりサービス」と呼び、独居世帯を見守り、家族に連絡したりセコムが駆けつけたりすることになる。
●専用アプリで家族も安心
「いつでもみまもり」アプリを通じて遠方に住む家族も利用者の状況を把握でき、双方に安心を提供する。家族はアプリを通じて、セコムへ駆けつけを要請することもできる。離れて暮らす高齢の親や独居の家族の安全を確保し、家族全員が安心して生活できる。
●健康相談サービス
24時間365日、無料の電話健康相談窓口を開いており、常勤する看護師が利用者の体調に関する相談や緊急時のアドバイスに対応する。このサービスは、高齢者が救急要請をためらう心理的なハードルを軽減する効果もある。
命と暮らしを守った利用事例
ホームセキュリティの導入事例を紹介する。これら事例は、「セコム・ホームセキュリティ」が単なる防犯ツールではなく、命を救い、家庭の安心を支える存在であることを示している。高齢者の暮らしを支援しているだけでなく、離れて暮らす家族にも安心を提供している。
●「お守り」となるペンダント型救急通報ボタン
オンラインの見守り機能が、独り暮らしの高齢者にとって「命綱」や「お守り」のような存在となっている。ペンダント型の救急通報ボタン「マイドクター」を首からかけたり、自宅内のトイレや浴室、寝室など複数の場所に設置したりして、日常生活を見守っている。
例えば、夜間に体調を崩した80代女性が胸が苦しくなりこのボタンを押し、セコムの警備員が駆けつけ、医療機関への搬送がスムーズに行われた。「マイドクター」は高齢者が「一人で苦しむ時間」を短縮し、命を守る役割を果たしている。
●地方の独居高齢者の異常事態を早期発見
地方で暮らす高齢男性は、奥様を亡くした後、一人で暮らすことになった。息子は東京在住で、物理的な距離があったため、セコムの救急通報と安否見守りサービスを導入した。その半年後、男性は入浴中に体調を崩し、そのまま亡くなってしまった。
この際、人感センサーが異常を感知しセコムが駆けつけたことで息子に迅速に連絡が入った。息子は「早期に発見してもらえたおかげで、父が孤独死の状態にならずに済みました」と語り感謝された。「この後、男性の家が空き家になったことから、防犯のために当社との契約を継続しています」と河村氏は説明する。
●火災センサーで事故を未然に防ぐ
正月のこと、その家庭では訪問していた祖父母と子供、孫たちが楽しく過ごした後、ガスコンロに火がついたまま気づかず外出してしまった。
台所に設置していた火災センサーが感知しコントロールセンターに通報、セコムの緊急対処員が迅速に団地内に駆けつけた。セコムでは鍵を預かっているためスムーズに住宅内に入ることができ、その住宅はもちろん団地全体も被害を免れた。
セキュリケア事業の展開
セコムは、防犯とヘルスケアを統合した「セキュリケア事業」を展開し、高齢者の生活の質向上を目指している。これまでの防犯サービスは「非常時に対応する」ことが中心であったが、セキュリケア事業では、日常生活の中での安心感の提供にも重点を置いている。この「日常」と「非常」を一気通貫でサポートする仕組みが、セキュリケア事業であり、同事業の指針である。
その中でも新サービスとして注目されるのが、孤独感を軽減する効果のあるコミュニケーションサービス「あのね」だ。「あのね」はコミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコエモ)」を通じて、24時間いつでも好きな時にコミュニケーターと会話を楽しむことができるサービスで、いわゆるAIロボットとは異なる。高齢者の会話内容はスマートフォンアプリを通じて家族も確認することができ、見守りとしての機能も有している。また「あのね」では、収集した会話データの分析を通じて、高齢者の健康状態の変化を捉え、フレイルなどの兆候を検知するサービスへの進化も目指している。
「ICTはさらに重要となると考えています。当社では、ウェアラブルデバイスやAIを活用した包括的な介護サービスの実現に取り組んでいます」と河村氏は語る。
蓄積された技術とノウハウ
セコムは長年にわたる経験の蓄積と技術力を持っている。業界最長の歴史を持つセコムは、契約件数も最多であり、多くの利用者のフィードバックを基にサービス品質を向上させている。防犯と見守りの両面においても、機器の精度は高く信頼性をもって提供している。
もっとも現在では、自治体から緊急通報システムや見守りサービスを提供されていることもある。しかし、自治体のサービスは、地域住民に等しく提供されるため、費用を抑えたベーシックな内容が中心となる。一方セコムのサービスは、利用者の個別のニーズに応じて防犯や見守り機能を柔軟にカスタマイズできる仕組みとなっている。
高齢期になり、自宅での生活に不安を感じ始めた時の選択肢としては、老人ホームなどの施設に入居することも考えられるが、できるだけ住み慣れた自宅で暮らし続けたいと、自宅での生活を望む高齢者は多い。施設の入居にかかる費用に比べると、「ホームセキュリティ」や「あのね」を上手に利用しながら、できるだけ長く自宅で暮らす方がトータルなコストを抑える結果につながるかもしれない。
「現状では施設の数も限られており、希望どおりに入居できないことも社会課題のひとつとなっています。その課題解決のひとつとして、可能な限り自宅で過ごすこと。在宅生活を延伸することがセコムの役割と考えています」と河村氏は自社のミッションを語った。
連絡先
セコム株式会社
URL:https://www.secom.co.jp/